不心得な「水増し」

 いくらか水を加えても、どうせ分かりゃしないさ-と、軽い気持ちでいたのだろう。江戸の昔、一部の商人が酒をこっそり水で薄めて売ったという。見掛けの量を増やすこと。「水増し」とは、こんな不心得な行いに由来すると俗説に言う▲中央省庁が、義務付けられた障害者の雇用数を長年にわたり水増ししており、本県を含む地方にも及んでいた▲ほら、私たちは法令の義務をきっちり守っているのだから、自治体も企業も倣いなさいよ-と、省庁は模範を示す立場にありながら、実のところ見掛け倒しだったとおぼしい▲就労機会を増やそうと努めてきた障害者団体をはじめ、あちこちから怒りの声が上がっている。障害者雇用の目標に達しなければ、納付金を課せられる企業もある。納得できるはずはなかろう▲本来ならば、障害者の持つ「手帳」や、指定した医師の診断書を基に雇用されるべきなのに、どうやら本県などはその確認が甘かったらしい。各省庁については実態を調べ、公表を急ぐという▲水増しは意図的か、過失なのか。「どうせ分かりゃしないさ」と、わざとやったのならば言語道断だが、「雇用の基準をよく知らなかったもんで…」と、模範のはずの省庁がさらりと言い訳して済む話でもない。どちらにせよ「不心得者」のそしりは免れまい。(徹)

© 株式会社長崎新聞社