僕がそこへ行く理由 第3回:最も弱い人たちのために働く

2014年、シエラレオネの活動でチームとともに

2014年、シエラレオネの活動でチームとともに

 不安や孤独に迷うなか、それまでの価値観を変える言葉に動かされた加藤青年。15年にわたって援助活動に携わってきた国境なき医師団(MSF)日本会長の小児科医・加藤寛幸医師が、援助の現場で得た、大切な出会いや経験を綴る全13回の連載です。

※2018年4~6月、静岡新聞「窓辺」に連載された記事を掲載しています。

2017年、ウガンダの難民キャンプにあるMSF診療所で、生まれたばかりの赤ちゃんを診察する加藤医師

2017年、ウガンダの難民キャンプにあるMSF診療所で、生まれたばかりの赤ちゃんを診察する加藤医師

 医師としての進路に悩みながらも得することばかり考えていた僕が、恩師に「損をすると思う方を選びなさい」と言われたからといってすぐに変われたわけではありません。ただ、少なくとも損得を離れて、好きな子どもを相手にできる仕事、小児科医の道に進むことを決めました。損得に重点を置かないと、それまでの迷いが嘘のように消えてとても気が楽になり、研修を受ける病院などもどんどん決まりました。

そして、医師として第一歩を踏み出す病院に向かうため、飛行機を待っていた空港で、僕にとって大切な二つ目の出会いに恵まれました。それは空港ロビーのテレビ画面に映し出されていた栄養失調の子どもと寄り添う医師の姿でした。その年は国境なき医師団の事務局が日本に開設された年でもあり、その活動を伝えるテレビ画面から目を離せなくなりました。栄養失調に苦しむ子どもの存在はもちろん知っていましたが、それまでは自分の住む世界とは完全に切り離されたものでした。

しかし、その映像によって彼らの住む世界と僕の暮らす世界が一つにつながりました。わずか数十秒間の出来事でしたが、その間に僕はこの仕事に自分の人生を懸けようと決めていました。最後に恩師から贈られた「最も弱い人たちのために働きなさい」という言葉が頭に浮かんでいました。

あれから25年の歳月が流れました。いつもはなかなか長続きしない僕が、あの時と変わらない気持ちでこの活動に関わっていることに我ながら驚いています。

僕がそこへ行く理由 これまでの連載を読む

第1回:1人の少女との出会い
第2回:損をすると思う方を選びなさい
第3回:最も弱い人たちのために働く

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