竹田&白坂が北米ピレリ・ワールドチャレンジに挑戦。刺激的な未知のコースをレポート

 8月10〜12日、アメリカはユタ州にあるユタ・モータースポーツ・キャンパスで開催されたピレリ・ワールドチャレンジ(PWC)第9戦・第10戦。このレースのGT-Xクラスに、竹田直人/白坂卓也のふたりがBMW M6 GT3で参戦した。日本ではそれほど馴染みがあるシリーズではないPWC、そしてユタ・モータースポーツ・キャンパスとはどんなコースなのか、白坂がレポートしてくれた。

■「アメリカのレースに出てみたい」を叶えるために

 白坂は服部尚貴率いるTeam NAOKIの一員で、2012年からはスーパーGT GT300クラスにも参戦し、4シーズンを戦っている。2017年からは新たな活動として、竹田と組んでブランパンGTシリーズ・アジアにKCMGから参戦しているほか、スーパー耐久でもAudi Team DreamDriveから参戦。また、ル・マン24時間の併催レースであるロード・トゥ・ル・マン・カップやアジアン・ル・マンでLMP3をドライブするなど、実にさまざまなマシン、コースをドライブした経験の持ち主だ。

 そんな白坂と竹田は、なぜPWCに挑戦することになったのだろうか。PWCは1990年に生まれたアメリカのシリーズで、頂点カテゴリーのGT、さらにGT4によるGTS、カップカー、TCR等さまざまなカテゴリーがそれぞれ別々のレースを行うシリーズ。名称のとおり、ピレリのワンメイクタイヤを履き、全11戦で争われている。ただ、日本ではどちらかというとメジャーなスポーツカーカテゴリーはIMSAスポーツカー・チャンピオンシップの方で、PWCはそこまで知名度は高くない。

「昨年の後半から、竹田選手と『アメリカのレースに挑戦してみたいね』と漠然と話していたんです」と白坂は挑戦した理由を教えてくれた。そこからKCMGの土居隆二代表の協力を得て、さまざまなコネクションを伝って参戦のチャンスを探っていたふたりは、IMSAにも参戦する強豪、ターナー・モータースポーツと連絡をとることができた。

「個人的に竹田さんがBMWがお好きだったこともあり、ターナーに行き着きました。交渉したところすごく乗り気で、ワールドチャレンジも前向きに進めてくれたんです。そこで日程を詰めて、5月にワトキンスグレンでテストをして、このラウンドに出ることになりました」

■フラットで砂埃がすごいユタ

 ふたりとターナー・モータースポーツが出場することになったのは、ユタ・モータースポーツ・キャンパスでの第9戦に決定した。このコースでは、かつてアメリカン・ル・マンやグランダム等も開催されていたが、現在大きなシリーズはPWCくらい。ただソルトレークシティからも近く、交通の便は良い。

「乾燥地帯に忽然とあるようなコースで、砂埃がすごくて。日本では絶対に見ないようなコースでしたね」と白坂はコースの印象を語ってくれた。

 コース長は3.047マイル=4.903kmで、白坂によればとにかくコースはフラット。砂埃のためスリッピーで、「フラットで特殊ですし、すごく滑るしコンディションも大きく変わる。路面がボコボコで、リペアした後があちこちあります」という印象だという。日中と夜の温度差は激しく、乾燥がひどいという。

 そんなコースに圧倒された白坂たちだが、チームにも驚かされたという。ターナー・モータースポーツは先述のとおり強豪だが、「日本人が想像するような大味なイメージはまったくなくて、すごくきっちりしているんです」と白坂は語る。

「エンジニアとデータエンジニアの連携もすごくて、BMWからのサポートスタッフも常駐していますからね。今回、BMW M6 GT3がユタを走ること自体が初めてだったので、データがまったくなかったのが厳しかったですが、エンジニアもメカニックもずっと働いているような印象でした。テストのときからすごくシステマチックです。こんなこと言うと怒られちゃいますが、本当にイメージと違いました(笑)」

 もちろん、アメリカ人らしい一面も。白坂の名『タク』が『タコス』に似ていることから、タコス好きのチームオーナーがリヤウイングに『#TakuNotTaco』とロゴまで入れてしまったとか。

■ジェントルマンドライバーのレベルが高い

 そんな竹田と白坂が挑戦したPWCのGT・スプリントXクラスだが、今回のユタ戦には14台が参戦した。ふたりはアマクラスからの参戦だが、プロ、プロ-アマとさまざまなドライバーの組み合わせがあり、「各メーカーののワークスドライバーがたくさん出ているんです。僕も詳しいわけではないですが、行ってみたらすごくレベルが高くて」と白坂はメンバーに驚いた様子。

 それもそのはず、今季ポルシェを駆りル・マン24時間でLM-GTEプロを制したマイケル・クリステンセンをはじめ、ウォルフ・ヘンズラー、アルバロ・パレンテ、トニ・バイランダー、ミゲル・モリーナらワークスドライバーがズラリ。さらに白坂を驚かせたのは、「ジェントルマンドライバーのレベルがものすごく高い」ことだ。

「ジェントルマンが総合上位に食い込んでくるです。5月にテストしたワトキンスグレンも走行時間が7時間くらいあって、やる気がある人はすごく練習できるんだと思います。ユタは特殊なコースですが、ジェントルマンたちは本当に速い。レベルが本当に高いなと感じましたね」

 白坂はブランパンGTシリーズ・アジアをはじめLMP3のレースにも出場しているが、そこで感じるのはジェントルマンドライバーのレベルの幅だった。ただ、PWCに出場しているジェントルマンドライバー、そしてプロもレベルが高いという。

「コース上でのマナーもジェントルで、ヨーロッパでやっているようなイメージでしたね。なんとなく感じるのは、ブランパンGTアジアはヨーロッパのドライバーも多いけど、若手のワークスドライバーが来るじゃないですか。だから速いタイムを一発出しても、クラッシュしたりもする。でもアメリカでは、きちんと結果を出しに来ているというか、完成されたドライバーが多い印象でしたね」

■「得るものはものすごくありました」大きな刺激を受ける

 ふたりはスリッピーななかでレースを戦い、第9戦ではアマクラス3位(総合11位)、第10戦はクラス2位(総合10位)でフィニッシュ。表彰台を獲得した。では、今回のレースに出るものでどんな収穫を得たのだろうか。

「得るものはものすごくありました」と白坂。

「全体のレベルが高いということもありますし、コースも特殊。日本ではせいぜいミューが低いと言ってもオートポリスくらいで、基本的に路面ミューが高いところで転戦しますよね。でも、今回は自分が経験してきたものとははるかに違うものだったんです。それに適応しなければいけないと思いました。そこでジェントルマンたちも普通に走っていますし。それはすごく大きな刺激になりました」

 白坂の言うとおり、アメリカはヨーロッパやアジアにはないコースのバリエーションが魅力とも言える。また、PWCはエントリーが多すぎず、トレーニングとして走るにもうってつけかもしれない。ふたりがPWCを選んだことは正解と言えるだろう。「僕はメーカー系のエリートドライバーではありませんが、こんな海外挑戦も楽しんでもらえたら」と白坂は言う。

 GT3やGT4、TCRといったカスタマーレーシングカーはこうして違和感も少なく、さまざまなコースやシリーズに挑戦できるのも魅力のひとつ。「実際にこうして体験してみないと分からないですし、またいろいろと挑戦してみたいです」と白坂は言うが、ぜひその機会と、感想を楽しみに待ちたいところだ。

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