雨やめたまへ

 見上げると、青空に白い雲が浮かび、すぐ隣には灰色の雨雲も広がっている。きのうの昼間に見た空は何とも奇妙な模様をなしていた。台風一過じゃない、また来てるぞ。空がそう告げるかのように▲台風19号が過ぎたと思ったら、続けざまに強い台風20号が迫り、四国、近畿付近に上陸した。所により、降り始めからの総雨量は千ミリに達するとみられる。ダブル台風の影響はただ事ではない▲千ミリ超となれば、先の西日本豪雨でひどくやられた所の総雨量に相当する。その数字にあらためて空恐ろしさが込み上げる▲西日本豪雨の被災地は7月末、逆走した台風12号の被害に遭った。そこへ再び台風が来て、西日本豪雨ほどの雨が襲うとすれば、「降れば土砂降り」と形容しても、まるで言い尽くせない▲岡山や広島などの豪雨被災地ではきのう、台風20号の避難準備をしながら土砂を急いで運び出す姿が見られたという。雨を含んだ土砂は重さが増し、乾くまで運び出せなくなる。だから大雨の降る前に、と▲雨をつかさどる竜神を古来、「八大竜王」と呼ぶらしい。〈時によりすぐれば民のなげきなり八大竜王雨やめたまへ〉源実朝。恵みの雨も時によって、降り過ぎて人々に悲嘆をもたらす。猛烈な雨が襲うとみられるのを知りながら「雨やめたまへ」と祈るほかない。(徹)

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