【小松礼雄のF1本音コラム】中団を制するハースの今後の課題と強み。マグヌッセンが次のレベルに行くために必要なこと

 現役日本人F1エンジニアとして、ハースF1でチーフを務める小松礼雄エンジニア。F1速報サイトで好評連載中のコラム、今回はサマーブレイク前の2戦、ドイツGP、ハンガリーGPをふり返り。現在のF1で起きている真相と、現場エンジニアの本音を読者のみなさまにお届けします。

 ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 サマーブレイク前の2戦、ドイツ、ハンガリーGPでは2戦連続入賞を記録しましたが、その反面ドライバーの課題が見えたグランプリでもありました。

 まずドイツGPですが、予選は5、6番手で通過し、決勝でも中盤まで入賞圏内を走行していました。しかし、43周目あたりから雨が降り出すと、ケビン(マグヌッセン)のペースが落ち始めました。

 それまで後続の(ニコ)ヒュルケンベルグに3.5秒の差をつけていましたが、路面が濡れ始めるとヘアピンやターン2などでミスを連発。ケビンはヒュルケンベルグ、ロマン(グロージャン)、(セルジオ)ペレスにかわされて8番手までポジションを下げてしまいました。逆にロマンはヒュルケンベルグと同様のペースでミス無く走行しており7番手にポジションを上げました。

 51周目に(セバスチャン)ベッテルがターン13でクラッシュし、セーフティカーが導入された時には、彼のすぐ後ろでロマン、ケビンともに走行していたため、すぐにピットインさせるかどうかを判断しないといけませんでした。

 その時点での路面状況を考えると、ミディアムのままコース上にとどまるのは難しいと判断し、ダブルストップでインターミディエイトに換えました。いきなりウルトラソフトへの交換は、ギャンブルすぎると考えたからです。

 しかしその後、雨脚は弱まり、セーフティカーラン中に再びピットインしてウルトラソフトに交換することになりましたが、あの判断は仕方がなかったというのが僕たちの結論です。

 レース後のミーティングでドライバーとも話し合いましたが、あの時点で僕がもし無線でミディアムからウルトラソフトへの交換を指示したら、ドライバーからも「無理だと返答したと思う」と告げられましたから。

 もう1回あの状況になったとしても、同じ選択をするだろうというのが結論ではあるのですが、問題だったのはダブルストップの際にケビンのタイヤ交換に時間がかかってしまったことです。

 もちろん、ダブルストップの2台目なので、普通のストップよりは時間がかかります。それにしてもかかりすぎました。ここら辺の作業も、もっと効率良くできるように改善しなければいけません。

 リスタートの時点で10番手につけていたロマンですが、ウルトラソフトを活かして(ブレンドン)ハートレー、(マーカス)エリクソン、(エステバン)オコン、ペレスを次々とオーバーテイクして6位入賞を果たしました。

 あと1、2周あれば、ヒュルケンベルグも抜けていたと思いますが、素晴らしい追い上げでした。本人もとても楽しんだと言っていましたが、久しぶりにロマンらしい走りをしてくれて僕もとても嬉しかったです。

■12位に終わったマグヌッセン、最大の課題は……

 対してケビンは、ハートレーさえ抜けずに12位止まりでした。刻一刻と路面の状況が変わるような展開で、今のケビンはうまく対処することができず、どうしてもラップタイムにバラつきが出てしまうんです。

 そこでミスを犯して、さらに焦ってしまう。焦ってしまって、今度はレースの展開・自分の今置かれている位置・状況がわからなくなってしまうんです。雨が降る前のドライでの走りからわかるように、安定した状況でクルマのバランスが良ければ、彼は良いレースをできます。これからの課題は雨など安定しない路面状態の時の対処です。

 ケビンのその課題は、ハンガリーGPの予選でも出てきました。Q2の序盤にケビンが9番手、ロマンが10番手のタイムを記録し、その後雨脚が強くなって黄旗が出たところで事実上、このセッションは終わりでした。

 なぜなら、雨量がかなり増え、フルウエットタイヤに履き替えなければいけない状況だったのでその時点でタイムの更新は不可能だからです。それでもケビンはフルウエットに履き替えてアタックに出たいと言ってきたのです。

 理解に苦しみましたが、議論している時間は無いので、フルウェットで送り出しました。当然、アウトラップで「状況が悪すぎる」と無線が入ってきて、そのまま帰ってきました。

 Q3ではその逆のことが起こりました。路面状況は明らかにフルウェットだったので、全員フルウェットでコースイン。2周終えたところでどうしてもグリップが悪いのでピットインして2セット目のタイヤを履くことにしました。その際になんとケビンはインターミディエイトで行こうと言い出したのです。

 ラップタイムはまだインターへのクロスオーバー(インターで走れる・インターの方がフルウエットより速いと予測されるラップタイム・路面状況)より7秒くらい遅かったんです。

 ですからインターではコースに留まることも不可能な状態です。普通、コース状況を一番良くわかっているのはドライバーですから、ピットウォールがドライバーの判断を覆すことはないのですが、これはあまりにも明らかに間違っていたので、もう一度フルウエットで行くと伝えました。

■一流への壁に突き当たっているマグヌッセン
■ハースの前半戦総括と後半戦への課題
■小松エンジニアの夏休み
続きはF1速報WEBで掲載中

© 株式会社三栄