広島に“不足”する左腕、鍵握る3投手 OB大野豊氏「計算できれば投手王国に」

期待を寄せられる広島の2年目左腕・高橋昂也【写真:荒川祐史】

かつて川口和久氏との左腕2枚看板を築いた大野氏「左腕不足といえばそう」

 投手力の優れたチームは強い。躍進を続けるカープにも強固な投手陣が存在する。しかし現状、先発の左腕不足はどうしても否めない。そんな中で将来性豊富なレフティが着々と現れ始めている。

「野村(祐輔)や大瀬良(大地)、岡田(明丈)を中心にしっかりとした右投手中心のローテーションは組めていると思う。結果も出ている。でも現在、左投手で安心して任せられるのはクリス・ジョンソンだけ。よく言われるように左腕不足といえばそう。それに左投手はやはり有利だからね。絶対的な数が少ないから、子供の頃から練習も含め打者は対戦する機会が少ないしね」

 そう語るのは広島OBで投手コーチも経験した大野豊氏。現役時代は先発、抑えのどちらも経験し、プロ通算148勝138セーブという素晴らしい成績を残した。同時代の広島には川口和久(プロ通算139勝)もおり、安定感抜群の左腕2枚看板として黄金時代を支えた。

 リーグ独走を続ける広島は、ローテーションを6人で回すことが多い。右投手の野村、大瀬良、岡田、九里亜蓮。左投手のクリス・ジョンソンにもう1人。17年に15勝を挙げた勝ち頭の薮田和樹が不調で1軍にいなくとも、ローテーションを組め試合を作れている。

 広島投手陣でのエース格は左腕ジョンソンだろう。15年の広島入団から2年連続2桁勝利。15年は最優秀防御率賞を獲得し、16年は沢村賞のタイトルを受賞。18年も夫人の出産などで一時帰国などはあったが、コンスタントに勝ち星を重ね絶大な安定感を誇る。

「ローテーションを守るのは簡単なことではない。1試合や2試合ならば、そこだけに集中すれば良い。でもプロの場合は年間を通じてシーズンは長い。肉体的にも精神的にもタフな状態な時は必ずある。そういう時にいかに普段に近い状態でマウンドに上がることができるか。勝ち試合の後でもできるだけ早く切り替えるようにしている」

「広島に左腕が不足しているという話は聞く。でも存在能力が高い素晴らしい若手もたくさんいる。今、先発に入っている高橋や中村恭平もそうだよね。持っている球は素晴らしい。僕より速いボールを投げるしね。あとは経験や自信の部分だと思う。結果が出てくれば、自分なりの調整方法などもわかってくる。いろいろとトライして自分に最も適したものを見つけ出してほしい」(いずれもジョンソン)

今季8年目を迎えた広島の左腕・中村恭平【写真:荒川祐史】

大野氏は高橋昂と中村恭に注目「いろいろと勉強して身につけてほしい」

 18年に1軍での先発も経験した2人、高橋昂也と中村恭平。ジョンソンだけでなく、大野氏も期待を寄せ注目している。

 10年ドラフト2位で富士大から入団の中村。長身からのキレの良い真っ直ぐや多彩な変化球を武器に、毎年のように大きな期待を受けている。しかしプロ5年で勝ち星は2つ。まもなく30歳を迎え、本人も「僕はいつも崖っぷちです」と語るほどである。

 大野氏は「2人とも1軍で通用するだけの実力は持っている。それを実戦でしっかり出し切ることができるかどうか。そういう意味では現状は高橋の方が先発しているけど、中村の方が先に出てくるのではとずっと思っている。中村はやはり大学、プロでの経験もあるし自分でいろいろと考えて球種を増やしたりしている」と言う。

 18年、中村は序盤の一時期、先発として起用され随所で可能性はみせてくれた。残念ながら結果を出すことはできず、現在はファームで次のチャンスを狙っている。

 そしてもう一人は高橋昂也。16年ドラフト2位で花咲徳栄高からプロ入り。高校時代、世代別日本代表に選ばれた逸材について大野はこう話す。

「高橋は本当に良くなっている。身体も入団時に比べるとできてきた。球の力などはもともとあったからね。でも少し荒削りの部分もある。たまに左投手にありがちな、抜けるような感じもある。でもプラスに考えれば、それだって自分の武器に使えば良いわけだからね。いろいろと勉強して身につけてほしい」

 18年も開幕前から大きな期待をかけられ、先発での登板機会も多い。特に6月28日、巨人のエース菅野智之と投げ合い、6回無失点でプロ初勝利を挙げ手応えをつかんだように見えた、高橋本人は自身の現在位置についてこう語ってくれた。

「菅野さんと投げた時は、とにかく良い投球をすることだけ考えていた。菅野さんが相手だったから力も出せたのだと思う。まだまだすべてがダメです。中でもコントロールをしっかりつけたい。特に真っ直ぐ。力を入れた時に球が暴れることはそこまでないんですが、プロでは細かい部分が必要。少しでも甘くなるとすぐにとらえられてしまう。今はそこを一番重要視しています」

デビューから活躍続けるフランスアは「掘り出し物」

 さらに、ここにきて面白い存在が現れた。カープアカデミー出身で、5月20日に支配下契約を勝ち取ったヘロニモ・フランスア。ブルペンでの役割が主であるが、5月26日の中日戦にはプロ初先発も経験。大事な場面での登板が次第に増え、目に見える結果を出している。

「結果を残さないといけないので、毎日、必死にやっている。まだまだ自分で納得できる投球はできていない。少しずつでも上達して、広島の勝利に貢献したい。自分としては将来的にはやはり先発でローテーションに入れるような投手になりたい。そのために必要なのは集中力。どんな状況でも集中して投球できるようにしないと、日本の打者のレベルは高いので抑えることはできない。そこを課題にしている」

 大野氏は言う。

「高橋、中村はもっと頑張って早くローテーションの一員として結果を残せるようになってほしい。それだけの能力は十分にあると思う。フランスアは言葉は良くないかもしれないけど、掘り出し物というか、本当に良い投手。日本の野球にもっと慣れてくれば、先発も後ろもできる、チームにとって大きな存在になれる可能性がある」

「個人的な意見だけど、左投手でシュートを投げる投手がいない。ほとんどの左腕がスライダー系とチェンジアップを投げている。右打者の外、左打者の内側に思い切ってシュートを投げられれば大きな武器になる。高橋は時折、そういう球が行くし、中村はシュート(ツーシーム)を覚えた。それらをしっかり投げられればもっと確実に抑えられると思う。フランスアを含めた左3人が計算できるようになれば、本当に投手王国になると思う」

 400勝の金田正一(元国鉄、巨人)、300勝の鈴木啓示(元近鉄)。MLBでも363勝のウォーレン・スパーン(元ブレーブス)や記憶に新しいランディ・ジョンソン(元マリナーズ他)。洋の東西を問わず、球史に名を残すサウスポーは多い。どの時代でも言われることであるが、左腕は有利であり、大きな可能性を秘めている。

 ここ数年は右投手中心であるが、それも巡り合わせにすぎない。なぜなら広島には名投手を生み出してきた伝統が存在する。現在のローテーションに強力な左腕が入ってきた時こそ、真の投手王国ができあがる。そしてその先にある、長年待ち望んでいた「日本一」という3文字が現実味を帯びてくる。(山岡則夫 / Norio Yamaoka)

山岡則夫 プロフィール
 1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌Ballpark Time!を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、製作するほか、多くの雑誌やホームページに寄稿している。最新刊は「岩隈久志のピッチングバイブル」、「躍進する広島カープを支える選手たち」(株式会社舵社)。Ballpark Time!オフィシャルページにて取材日記を定期的に更新中。

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