【特集】東京五輪ボランティアは「学生動員」? 風刺サイトも登場

記者会見する小池都知事(左)、林文科相(中央)、建設中の新国立競技場(右)

 2020年東京五輪・パラリンピックのボランティア募集が9月から始まる。大会ボランティア8万人、開催自治体が募集する都市ボランティア3万人、合わせて11万人のニーズが見込まれている。その主力は学生とされ、文部科学省とスポーツ庁は7月26日に全国の大学と高等専門学校に対し、授業や試験日程の繰り上げなど弾力的に変更できるよう通知した。小池百合子都知事も8月2日に都内の大学学長との定例懇談会で学生のボランティア活動を要請した。国、自治体を挙げて早めに学生の確保に努めようということだが、本来個人の自発性に委ねられるボランティアが行政によって「動員」されるのではという見方も出ている。最近の状況をまとめてみた。(共同通信=柴田友明)

 

 「学生本人の…」 

 8月3日の林芳正文科相の定例会見(文科省HP)でのやりとりをそのまま掲載したい。 

 (記者)スポーツ庁と文部科学省が全国の大学、高等学校に対して東京オリンピックのボランティアに参加しやすいように、授業や試験期間を繰り上げるなどの対応を求める通知を出した件でお伺いします。現在の日本の大学の学費は公立、私立を問わず高騰を続けているため、高額な奨学金やローンを借りてまで進学し、社会人になって返済する苦しむ例が数多く見られます。授業や試験期間の繰り上げは、そうした高額の学費を払う学生に対して学業の機会を失わせていることになりますがどうお考えでしょうか。また、東京オリンピックのボランティアについては、やり甲斐詐取のブラックボランティアとして大きな批判を浴びていますが、こうした学生にとっては二重の搾取になることがあると思うんですがどうお考えでしょうか。

 

(林文科相)「ボランティア活動への参加は、学生本人の応募に委ねられているものでありますが、今回の通知はですね、平成32年に限り祝日を移動させた法改正、この趣旨を踏まえまして、各大学等が平成32年度の学事暦の設定を適切に行うようにお願いをするとともに、学生が東京大会やボランティア活動へ参加する意義を踏まえて、各大学等が学事暦の変更等を行う場合の留意事項、これを改めて周知をしたものでございまして、学生のボランティア活動への参加を促すために学事暦を変更するよう求めるものではありません。実際に学事暦を変更して大会期間中に授業、試験を行わないようにするか否かにつきましては、あくまで各大学等においてご判断をいただくものでございまして、文科省としては各大学等が法令に基づいた適切な判断を行うための留意点をお示しするため、今般の通知を発出したものでございます。今回の通知の趣旨につきましては、様々なご意見があることも踏まえて丁寧に説明して参りたいと、そういうふうに考えております。

 

 「ブラック」と極端に表現した記者の質問に、「学生本人の応募に委ねられる」と原則論を語る大臣。互いに平行線をたどるようなやりとりだが、学生が参加を強いられる空気を醸成してはいけないと筆者は考える。すでに一部の大学は2020年7月24日の五輪開会式前までに授業や試験を終え、ボランティア研修などで授業を欠席する場合は「公欠」とすることを決めている。「歴史的なイベントに参加したい」「五輪を現場で楽しみたい」という学生にとってはうれしい措置だろうが、行政の意向に大学が競うように無償の「人材派遣」をするなら話は違ってくる。

建設中の新国立競技場(日中と夜間)

 急拡散したサイト 

 4日前の8月20日から「東京五輪学生ボランティア応援団」というサイトがSNSを通じて急激に拡散した。「東京五輪組織委員会の皆さんは、私たち学生に、やりがいあふれるボランティアの機会を与えてくださろうとしています。日本には昔から、『若いうちの苦労は買ってでもしろ』ということわざがありますが、この貴重な機会を、組織委の皆さんはなんと無料で提供してくださるのです!! が、こんな機会、ほかにあるでしょうか?」。冒頭にこんな書き出しで、大学生の名前で作られたサイトは一時ツイッターの「トレンド」で上位を占めた。 

 字面だけ読めば、ボランティア〝万歳〟なのだが、全体を読み通すとサイトの作り手が風刺を意図、皮肉を込めていることがよく分かる。 

 東京五輪でのエピソードをES(エントリーシート)や面接に盛り込めば、大企業の内定は間違いないと説き、当初の大会予算が3800億円だったことに言及。「そんなチンケな額じゃ、東京五輪は素晴らしいものになり得ませんし…1兆円以上ものお金があれば、必ずや『クール・ジャパン』と賞賛される」。「東京の暑い夏、組織委が、打ち水やうちわの配布などいくら万全な対策をとってくださっても、8時間にわたって働くのは大変なこともあるかもしれませんが、『絆』さえあれば人間は、艱難辛苦にも耐えられるはずです」と絶賛が続く。 

 戦中の金属放出を彷彿とさせる都市鉱山からのメダル製作などと例を挙げて、最後に、これらの要素がそろえば「美しい国・日本は世界に誇る自己犠牲の精神をもって最高の五輪を実現できる」と締めくくっている。 

 こういった内容の風刺サイトが拡散というかたちで、ネット上で「共感」を呼ぶのも、もしかしたら意に沿わず、強いられる警戒感が若い人たちの間であるかもしれない。ボランティア問題はまたあらためて取り上げたい。 

 ×  ×  × 

 インドネシアで開かれているジャカルタ・アジア大会には約1万2千人のボランティアが参加。現地の組織委は約20の大学でセミナーを開き、参加を呼びかけた。1日8時間程度、週6日活動し、交通費や食事代で1日、日本円相当で約2300円が支給されているという。

© 一般社団法人共同通信社