イノシシと人の生活圏

 長崎市郊外をドライブ中、イノシシ2頭が車道を横切っていった。草むらから草むらへ、ここは自分たちの生活圏だとアピールするかのように悠然と▲イノシシの生活圏は今や、人間の生活圏と相当重なっていそうだ。一例として、イノシシによる2016年度の農作物被害は、県の統計によると2億3千万円。25年前の10倍以上に増えた▲近郊の里山を歩けば、あちこちでイノシシよけの柵に出くわす。田畑ばかりでなく、家の敷地をぐるりと取り囲む“生活防衛”の柵を見かけたことも。「イノシシがわが物顔にうろうろして、人は小さくなっている」とある住民▲土を掘り返す習性のあるイノシシは、路肩を掘り進んで舗装道路に穴を開けたり、のり面の石垣を崩したりすることもある。北松小値賀町の野崎島では、世界遺産の構成資産内にある石垣に被害が出ているとか▲被害増の背景には耕作放棄地の増加があると多くの人が指摘する。人の姿を見かけることが少なくなれば、イノシシはじわりと生活圏を広げる。それが地域で踏ん張っている農業者らにとっては、迷惑な侵入者になってしまう▲最近は、増えたイノシシを捕獲しジビエ(野生鳥獣肉)として有効活用しようとする動きが目立つようになってきた。人とイノシシの、古くて新しい関わりの形だろう。(泉)

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