「医療的ケア児」増加 保育園が見つからない 

 出生して医療機関を退院後も、たんの吸引や経管栄養などの医療的なケアが日常的に必要な子ども「医療的ケア児」が、年々増加している。しかし、保育施設の受け入れは進まず、県内でも同施設に通っているケア児はごくわずかとみられる。あずけるところがなくつきっきりでケアをする保護者の負担は重く、国や自治体による体制整備が急務だ。
 長崎市内に住む女性(34)は育休を取り、昨年8月に生まれた長男(1)の面倒を見ている。長男は気管を切開し、そこに管を差し込んでいる。女性は管に、吸引器とつないだカテーテルを挿入し、たんを吸い取る。カテーテルを交換すると、口と鼻から唾液や鼻水を吸引。長男が起きている間は頻繁にケアをする必要があるため、女性はこれらの機器や手動式の人工呼吸器などをバッグに入れて持ち歩いている。
 長男は予定日より2カ月早く生まれた。胎児に酸素や栄養を送る胎盤が急に剥がれたためだ。原因は不明。長男は救急搬送先の病院から、新生児集中治療室(NICU)がある長崎医療センター(大村市)にドクターヘリで運ばれ入院。一命は取り留めたが、脳性まひで人工呼吸器を付けざるを得なかった。

気管に挿入した管からたんを吸引してもらう子ども=長崎市内

 女性はいくつもの管につながれた長男と対面し「早く生んでしまってごめんね」と涙が止まらなかった。長男は気管切開の手術をして次第に人工呼吸器が外れるようになり、今年4月、自宅に戻った。
 育休期間がいったん8月に切れるため、長男を受け入れられる保育園を市役所に問い合わせた。看護師がいる園を紹介され、自宅周辺の10カ所ほどに電話をすると、障害を理由にほとんど断られた。「見学に来てください」と勧めてくれた園が1カ所だけあり、時々、園開放日に親子で訪れている。
 育休は半年延長した。最長で来年夏まで取得できるが、自分の業務も担っている職場の同僚に対し申し訳ない気持ちになる。長男にとってもほかの子どもと一緒に過ごす方が発達の刺激になっていいと思う。だが保育園が見つかるめどはいまだ立たない。

全国の医療的ケア児数

◎県外の先進地 参考に

 厚生労働省によると、2017年3月末現在、全国の保育所や認定こども園計292カ所が医療的ケア児計323人を受け入れ、県内は3カ所計3人にすぎなかった。
 約15年にわたりケア児をみてきた長崎市の訪問看護ステーション鳴見の代表看護師、松島由美さんは「子どもの世話があるため働きたくても働けない母親が多い。仕事を辞めざるを得ず、家計が苦しくなった人もいる」と話す。
 県南部に本年度、ケア児を初めて受け入れた保育園がある。ただ保護者や主治医らと事前に何を確認すべきか県内では分からなかったため、厚労省が17年度に始めた保育支援モデル事業に応募している京都市など県外の先進地を参考に、園の看護師が急きょ必要書類を作成。主治医の意見書やケアの実施計画書など11種類に及んだ。
 園長は「多くの園が受け入れてあげたいと思っているが、現状ではどこまでケアをすべきなのか、万が一事故が起きたときの責任はどうなるのかなどが明確でなく、二の足を踏んでいるのではないか」と指摘する。
 京都市は今年3月、ケア児が保育所などを利用する際の要綱を施行した。幼保総合支援室によると、保護者から申し込みがあった場合、医師、看護師、関係部署の職員で「検討会議」を開催。提出された書類や事前の面談などを基に協議し、その結果を踏まえ市長がケアが実施可能かどうか決定する。認められれば、保育所は主治医の指示書などを基にケアの実施計画書などを作成し、保護者は承諾書を保育所と市に提出する。
 要綱は、ケアは看護師らが実施すると規定しているが、保育所への看護師配置は法令で義務付けられていない。今年6月現在、京都市内で保育時間にケアを受けている子どもは11人いるが、幼保総合支援室は「医療的ケア児による利用が毎年あるかどうか分からず、保育所は看護師を確保すべきかどうか判断が難しい。3人を受け入れている保育所もあるが、病院経営の法人が運営している」と説明する。
 厚労省は今後、各自治体のモデル事業の結果公表を検討。さらに18年度の調査研究事業で有識者らの検討会を設け、受け入れ体制のガイドラインを取りまとめるという。
 訪問看護ステーション鳴見の松島さんは「子どもの障害を自分の責任と思う母親も少なくない。その上ずっと子どもの面倒を見ているため、心身のストレスが非常に大きい。ほっとひと息つけるよう、あずけられる場所が必要」と話した。

京都市で医療的ケア児が保育所を利用する際に必要な書類の一部

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