【特集】「考える野獣」が行く

柔道松本、結婚・出産経て進化

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試合後、長女を抱く松本薫=25日、兵庫県尼崎市のベイコム総合体育館(画像の一部をモザイク加工しています)

 鋭い眼光、むき出しの闘争心から「野獣」の異名を持つ柔道女子57キロ級の松本薫(ベネシード)が、25日の全日本実業個人選手権で、2016年リオデジャネイロ五輪以来となる個人戦復帰を果たした。12年ロンドン五輪は金メダル。リオ五輪銅メダルの後は、ほぼ1年間休養し、その間に結婚、出産した。子育てと柔道の両立で、20年東京五輪を目指す松本の新たなスタイルは「考える野獣」だ。

闘争心の源泉

 「ママ、負けちゃったー」。25日の大会、決勝で金子瑛美(自衛隊)に優勢負けした松本は、畳を下りると真っ先に観客席に駆けつけ、長女を抱き上げ、ほおずりした。

 畳の上での厳しい表情はすっかり消えた母親の顔。「以前は柔道だけ。喜怒哀楽すべてがそこにあった。でも今は娘が一番。そこにプラスして柔道ができるっていうのが、こんなに幸せなんだと感じている」と表情を緩めた。

 「丸くなった」というのとは違う。「娘に下手な試合は見せられない。『お母さんは絶対最後まで諦めない』という姿勢を見せたい」。子供を持ったことで、松本の闘争心の源泉はより深くなったようだ。

決勝を闘う松本薫=25日、兵庫県尼崎市のベイコム総合体育館

もう一歩勝ちに

 復活Vはならなかったが「悔しさよりも、今の自分に何が足りないのかが明確になった」という。

 1、2回戦は関節技と抑え込みで一本勝ち。続く準々決勝では「体が勝手に反応し、かけたことのない小内刈りが出た」という納得の一本。全体的には「パワー負けはあったが、(技や動きの)速さや、反応なら私が一番。危ないというシーンはなかった」とテクニック面での手応えを得た。

 一方で気持ちの面では課題が見えた。準決勝の石川慈(コマツ)戦でも小内刈りで技ありを奪い勝利。しかし「ヤマだった」という相手に勝ち「『疲れた』と思ってしまった」。

 決勝では試合中盤に指導を受け、その後払い巻き込みで技ありを奪われる展開。「試合の途中で『あ、私勝ちにいってない』と分かった」という。「もう一歩、もう一歩と勝ちにいく練習、その覚悟が足りていない」と自己分析した。

質より考える

 母親業と両立しながら、そこを追求していくことは可能なのか。子供の送り迎えもあり、「ほぼ毎日、練習が中途半端な状態で終わる」と明かす松本。時間的な制約があることは否めない。

 ただ対処法ははっきりしている。「以前は『量』。その次は『量より質』。今は『質より考える』」。年齢的なこともあり、疲れて体が動かない時もあるという。しかし、その分自分に何が必要かを考える時間が多くなった。子供を寝かしつけた後などのわずかな時間を利用し、思いついたことを日記につける毎日だ。

 2年前、8年の交際を経て結婚した一つ年上の夫は「子供を第一に考え、そこはお母さんだなと思う。でも柔道着を着たら全然違う」と話す。「母親と子供2人では柔道はできない。自分も育児をして支える。そうしないと東京五輪は目指せない」。家族からの惜しみないサポートがあるのも心強い。

代表への道

 「自信はないが、1パーセントでも可能性がある限り懸けていく」。若手の台頭もあり、東京五輪日本代表への道は遠く険しいものであることは分かっている。

 この日の闘いで、2020年への距離感はつかめたのか。その問いに松本は「まだまだ。ベースになるのは11月の講道館杯(全日本体重別選手権)。そこで結果が出ればやっと1パーセントに近づいていける」と、口元を引き締めた。

 地元開催の五輪で、これまで以上にし烈を極めることが確実な日本代表争いを、いかに闘い抜いていくか。「考える野獣」の進化を楽しみにしたい。(共同通信=松村圭)

表彰式の後、笑顔を見せる松本薫=25日、兵庫県尼崎市のベイコム総合体育館