<レスリング>【2018年アジア大会・特集(1)】タイマー故障でリズム狂ったが、相手の強さ認める…男子フリースタイル57kg級・高橋侑希(ALSOK)

(文・撮影=布施鋼治)

アジア選手権優勝のカン・クンソン(北朝鮮)を攻める高橋だったが…

 今回のジャカルタ・アジア大会では、会場で国旗が落下したり、選手のアルファベット表記や表彰式での国旗の取り違えがあるなどトラブル続き。その余波はレスリングにも及んだ。

 男子フリースタイル57㎏級2回戦。高橋侑希(ALSOK)-カン・クンソン(北朝鮮)の第2ピリオドになっても、マットサイドにあるタイマーが動かず、試合が中断。コーナーに戻った高橋は、ただじっと試合再開を待たなければならなかった。

 「見た感じ、時計のトラブルだということは分かったけど、何の説明も受けていません。身体も冷えてくるし、いつ始まるかもわからない。審判も何も言ってくれない。しょうがないですね」

 中断時間は15分に及んだ。高橋は天災ではないけど、こんなこともあるんだなと事実を事実として受け止めるしかなかった。「僕は前半に追い込んで、後半にかけるタイプ。でも、アクシデントのところで区切りができてしまって、2ピリオドになっても自分のペースに持っていけなかった」

 結果は5-9での敗戦。現役の世界王者が初戦で姿を消すというアップセットの主役になってしまった。高橋は「相手も同じ条件なのに、自分のペースにもっていけなかったのはまだまだ自分の弱いところ。どんなアクシデントでも乗り越えられるようになりたい」と悔やんだ。

負けたことで、チャレンジャーとして世界選手権へ挑戦!

 そもそもアジア大会に向けた強化合宿では、「試合では何があるか分からない」と、0-4、あるいは0-2で相手にリードされているシチュエーションから逆転する練習を積み重ねてきた。その手応えを高橋は十分に感じていたが、想像をはるかに越えるトラブルは、全てを御破算にしてしまった。

タイマーのトラブルが長引き、ジャージを着て再開を待つ高橋

 もっとも、原因はそれだけではない。高橋は「まずは相手の気合に押されてしまった」と反省することを忘れない。「今年のアジア選手権(キルギス)の試合ビデオを見て、カンは粘り強さが他の選手とは違っていて、最後の守りも強かった」

 プレッシャーがなかったといえばうそになる。大会直前の公開練習では「世界王者になった実感は全然ない」と語っていたが、クンソン戦後は。「なるべく意識しないようにしていたけど、意識してしまったのかな…」と本音を吐露した。

 「自分の弱い部分ではあるが、負けてちょっと安心した部分もある。気負っていたのでしょう。負けて悔しい。ただ、これでまたチャレンジャーの気持ちで世界選手権にいける」

 追われる立場から。精神的に追う立場へ。高橋は「圧倒的に負けたわけではないので絶望感はない」と開き直る。「カンとの再戦? テクニックで言うとタックルで取ったあと2点につなげるまでの技だったり。そういうテクニックを磨いたら勝てる相手だし、もっと楽に試合を運ぶことができる」

 気持ちを新たに、10月のハンガリーでは世界V2を成し遂げることができるか。

© 公益財団法人日本レスリング協会