【特集】女性初、戦闘機パイロットの任務 潜水艦も女性起用、自衛隊の変容

米空軍の空中給油機に近づく航空自衛隊のF15戦闘機(左)、空自初の戦闘機パイロットの松島美紗2等空尉(右)

 航空自衛隊初の女性戦闘機パイロットが8月に誕生した。防衛大出身の松島美紗2等空尉(26)で、新田原基地(宮崎県)の第5航空団に配属された。資格訓練を経て、領空侵犯の恐れがある航空機への緊急発進(スクランブル)の任務に就く。肉体的にも精神的にも相当なタフさが要求される戦闘機パイロット。「思い続けた夢がかなった。男性と変わらないよう、1日も早く、一人前のパイロットになりたい」。報道陣に笑顔で抱負を語った。戦闘職種への女性隊員起用の背景を考えた。(共同通信=柴田友明) 

軽やかに…

 筆者は10数年前に千歳基地(北海道)で空自の主力戦闘機F15に体験搭乗したことがある。マッハを超えるスピードでの対戦闘機戦闘訓練(ACM)を後部座席で味わった。急上昇と急旋回、そして急降下。強烈なジェットコースターの100倍以上の威力と言えば、分かっていただけるだろうか。上下、左右の感覚がなくなり、耐Gスーツで下半身を締め付けられ、指すらも動かせない状況になった。

 ところが、同じ透明なキャノピーの中、すぐ前の座席で空自パイロットが全くGの圧力を感じていないかのように、軽やかに操縦かんと機器類を操作しているではないか。酸素マスクを装着して苦しい息づかいをしながら、筆者はただただ驚愕した。その鮮烈な記憶があるだけに、男性とともに訓練課程を修了して実任務に就く女性パイロットの出現は「すごい!」ことだと思った。

空自の主力戦闘機F15

 空自輸送機や救難機のパイロットは20年余り前から女性が起用されてきたが、地上の何倍もの強い重力がかかる戦闘機、偵察機の操縦は女性の身体への負担が大きいのではないかと、防衛省・自衛隊内で長年議論や懸念があった。だが、米軍などではとっくの昔に解禁。少子化を背景に、自衛隊のほぼ全職種で女性隊員を配置できるよう制限が緩和されつつある。空自の解禁は2015年。第1号の松島さん、それに後進の女性隊員が続いていくようだ。

 1954年の自衛隊創設当時は、女性隊員は看護職に限られていた。今や自衛官約22万人のうち、約1万4千人(6%超、2017年3月末現在)を占め、防衛省は30年までに割合を9%以上にする目標で、さらに採用年齢の上限を現行の26歳から32歳に引き上げる方針を示している。背景には先に挙げた少子化、自衛官の応募者数の減少傾向があり、女性隊員の増加を見込んでいる。

 この流れの中、戦闘職種への進出もめざましい。海上自衛隊の潜水艦部隊はまだ「男の聖域」を保っていたが、防衛省は解禁する方向で検討し始めた。(これまで艦内スペースが限られ男女別の空間を保てないということを理由にしていたが…)

「等身大」

 話を「女性戦闘機パイロット」に戻そう。

 日本の防空識別圏に入り、近づいてくる航空機にどう対応するかは、それ自体が国家の意思とみられる。ものすごい緊張の中で、高度な判断が求められる。その一翼を女性パイロットも担う時代になりつつあるということだ。

 女子マラソンの発展と比較すると分かりやすいかもしれない。かつて同じように「身体への負担論」から、五輪の正式種目になるまで時間がかかった。いざ採用されると、どんどん記録を伸ばし、女子マラソンへの注目度合いはがぜん男子をしのぐようになった。 

 戦闘機パイロットを取材、等身大の彼らを描いた20年前のノンフィクション作品に「兵士を見よ」(著者・杉山隆男さん、新潮社)がある。選び抜かれた「トップガン」たちの心情の奥底に迫った名作だと思える。取材に必要な航空生理訓練、体験搭乗の細部にわたる記載は全くその通りだった。昨年、刊行された「兵士に聞け 最終章」(同)では空自那覇基地でスクランブルの任務に就くパイロットの過酷な日々を書いている。

空自初の女性戦闘機パイロットになる松島2尉=2018年8月23日、新田原基地

 杉山さんは最終章の「あとがき」で近年の取材のやりづらさを次のように書いている。

 「誰も同席せず、隊員と一対一の差し向かいで話を聞くことがかなえられていた。ところが今回の『兵士に聞け 最終章』ではそれが一変した。インタビューには自衛隊の広報が絶えず立ち会い、私が歩くところには必ずお目付役のようにして基地の幹部がついて回った」「等身大の彼らから洩れてくる囁きやつぶやきを拾い集めることが困難となっては、もはやいままでのような『兵士に聞け』を書くことはできない」。

 気になる記述だが、女性パイロットがお披露目されたからには、今後の彼女たちの物語、肉声については筆者も含め、是非知りたいところだ。

緊急発進で離陸する空自F15戦闘機=2015年4月、那覇基地

 

© 一般社団法人共同通信社