サンスター、高槻工場の耐震化が奏功 SNSも使い地震後2日で再開、安否確認豪雨でも有効

サンスター日本ブロック総務部長の宮嵜氏(左)と総務部総務グループ課長の佐野氏。佐野氏が手にしているのは備蓄品として用いられる保存期間5年の液体歯磨き「ガム・デンタルリンス」

備蓄や訓練を手厚く

歯磨き剤や歯ブラシなど口腔ケア製品の製造・販売大手のサンスター。社屋の建て替えのため本社機能は現在一時的に大阪市の大阪オフィスに移しているが、登記上の本社と主力工場は大阪府高槻市にある。大阪北部地震は会社の中枢を直撃する災害となった。

同社では自然災害に備え初期行動をマニュアル化。(1)社員の安否確認と安全確保(2)業務再開への行動(3)被災地域への支援活動―の3ステップで実施している。地震の場合は震度5強以上で該当地域の勤務者に自動配信され、部門長が返信内容を確認できるようになっている。訓練も最低年1回、工場では2~3回実施している。加熱が不要な食料など備蓄も行っているほか、東京オフィスでは首都直下地震も想定し、いざという時に徒歩帰宅となってもいいように帰宅の方向で12路線に分けて同じ方向の社員同士が助け合えるように顔合わせや、帰宅支援マップや簡易トイレといった携行品を持たせる準備も行っている。発災時は安否確認と社員の安全確保、そして生産復旧に向けた動きとなる。

登記上の本社でもある高槻工場

高槻工場は3交代制による24時間生産体制をとっている。大阪北部地震が発生した6月18日午前7時58分はちょうど夜勤勤務者が帰宅しようとしていたタイミングでもあった。無理な帰宅を引き留めたほか、該当する約1000人の安否確認を実施。最初の10分で6割程度が返信し、3時間程度で全員の無事を確認した。総務部総務グループ課長の佐野敏之氏は「迅速な安否確認とけが人を出さずに避難できたことは訓練の成果。逆に避難後の行動など訓練で想定していないことが明確になり、今後の訓練シナリオに生かしていきたい」と振り返った。危機管理を管轄する総務部では早急に連絡をとり合う必要があり、SNSを活用。電話が通じにくい発災時にも連絡がとりやすく、2016年の熊本地震から利用しているという。発災後3分で、大阪オフィスに災害対策本部を設置。高槻工場や東京オフィスなどすべての拠点をテレビ電話でつないで午後1時には会議を行えた。

非常時にも活用されるテレビ会議システムを導入。取材当日、東京総務グループ課長の星信之氏(画面内)も同システムでインタビューに参加

生産再開はインフラ待ち

出社については鉄道が不通になったこともあり、無理な出社はさせなかった。安否確認システムを通じ、出社の必要がないことを通知。通勤途中の社員で帰宅が難しくなり、高槻市に隣接し大阪市と京都市の間に位置する茨木市の営業所に立ち寄り、営業車を使って帰宅させた社員もいたという。高槻工場には約20人が夕方まで残っていたが、車で相乗りし帰宅できた。

高槻工場は2010年に耐震工事を実施しており、壁に軽微なひびが入った程度で、生産設備も含めて大きな被害はなかった。しかしインフラに問題が。電気はすぐに使用できることが確認できたが、水道と都市ガスが使えないことがわかり、生産はストップした。

高槻市の避難所に掲示された「災害時のお口のケア啓発ポスター」(提供:サンスター)

写真を拡大 「災害時のお口のケア啓発ポスター」の拡大図(提供:サンスター)

生産再開にはインフラの再開以外にも原料の調達や顧客が製品受け入れに問題がないかの確認も必要となる。購買部門が原料のサプライヤーに確認をとった。サンスターでは歯磨き剤など消費者向けの製品を生産しているが、グループ会社のサンスター技研は自動車用接着剤や建築用シーリング剤など企業向け製品を生産している。消費者向け商品の販売先である主要小売業やシーリング材の主要取引先である自動車関連企業などからも情報を収集。さらには物流事業者にも確認を行った。その結果、原料調達先や販売先、物流には問題はなく、ガスと水道の停止のみがネックとわかった。どちらも翌19日には復旧。20日午前に水質や設備の検査を行い、その日の午後には生産を再開できた。「高槻工場の耐震工事を行っていたことが奏功した」と佐野氏は早い生産再開について振り返る。

高槻工場にある老朽化した事務棟を現在は建て替えている。このため大阪オフィスに現在は本社機能があるが、いずれ高槻に戻る予定となっている。今回の地震ではサンスターも被災企業ではあるが、地元自治体への支援として20人以上が避難していた高槻市内の避難所9カ所に口腔ケア商品の提供も実施。あわせて避難所には「災害時のお口のケア啓発ポスター」を貼るなど、誤嚥性(ごえんせい)肺炎予防など健康管理の啓発活動も行った。同社では保存期間が5年の液体歯磨き「ガム・デンタルリンス」も開発しており、全国の地方自治体での備蓄にも採用されている。

写真を拡大 災害時に水がなくても使用でき、5年の長期保存もできる液体歯磨き「ガム・デンタルリンス」のパンフレット(提供:サンスター)

豪雨被災地に大規模支援

平成30年7月豪雨では7月5日の段階で関西地区の鉄道の運休が予測されていた。そのため準備を進め、翌6日の早朝にはJR西日本の大部分の運休の情報を確認し、対象の従業員約1000人に最寄りの公共交通機関が運休の場合は自宅待機するよう、安否確認システム通じ通知。交通網の停止が広がることが予測されたため、さらには出社している従業員についても午後2時には帰宅させた。高槻工場でも午後には近隣に住む従業員が確認作業をしたうえで帰宅となった。

しかし今回の豪雨については関西にとどまらず、西日本広域で影響が。6日の午後5時以降発表された大雨特別警報に基づき、福岡から関西へと順次各拠点に対して安否確認システムを使い注意喚起。さらに翌7日午前9時には安否確認を行った。これは安否確認システムで質問内容をカスタマイズして行い、結果的に無事を確認できたという。拠点への被害もなかった。

9日に対策本部を設置したが、その前の7~8日には中国地方の被災地支援のために既に状況の確認を広島の拠点を通じ行っていた。主要道路の寸断のため、本社のある大阪ではなく九州から水を搬送。さらに徳島県のサンスター工場から歯ブラシや液体歯磨きなど口腔ケア商品や非常食などを愛媛県に陸送後、フェリーで輸送。被災地に届けた。これらは現地営業、工場、購買、物流各部門との素早い連携で実現できた。

大阪北部地震での反省点について、日本ブロック総務部長の宮嵜潤氏は「地震発生時は従業員の多くが通勤途中の時間帯。この時間帯の対応策は検討できていなかった」と述べた。よりセキュリティ性の高いSNSの活用も含め、さらなる安否確認の改善を図っていく。また、初期行動はマニュアル化されているが、今後は南海トラフ地震などさらなる大被害に備え、1~3カ月程度を見すえた復旧対応についても検討する方針という。地震でガスの停止があったことから、電気で代替できる仕組みも調査する。

■豪雨被災地へのサンスターによる支援の詳細はこちら
http://jp.sunstar.com/company/notice/20180713.html

(了)

リスク対策.com:斯波 祐介

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