金属行人(8月29日付)

 来月の自由民主党総裁選に向け、安倍晋三首相と石破茂元幹事長の「地方」対策が活発化している。地方創生や東京一極集中の是正といった積年の課題でも議論を盛り上げてほしいが、刻々と現実は厳しいものになってきている▼夏休みに郷里の群馬県へ帰省した。地元はもともと大きな街ではないが、実感させられたのが空き家の増加だ。筆者の実家の隣家や、駅から徒歩圏の友人宅周辺など、ここ1~2年で目に見えて増えている。一方、保育園はどこも定員割れで、待機児童はゼロどころかマイナスだ▼首都圏とされる群馬だが、東京への通勤圏にはなりにくい。例外的なのは鉄道が比較的便利な高崎市。いま高崎駅の東口を出た競馬場跡地で再開発が行われている。巨大なコンベンションセンターや、新幹線通勤できる層をターゲットにした高級マンションを建設中だが、これらは東京との連結頼みと言わざるを得ない▼結局、地元でいい職がなければ地域社会の自律性を支えることはできない。その点、裾野の広い製造業は地方のコミュニティを支えている。しかし、今のままだと地方の労働力を生かした日本のものづくりが危うくなりはしないか。空き家どころか空き工場ばかり―なんて光景では目も当てられない。

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