僕がそこへ行く理由 第8回:嵐の船上で

インドネシアでの活動で、ストライキという歓迎を受けた加藤医師は、地道な活動でチームを作っていきます。南の島での活動は、予測不可能な自然に翻弄されることも…。15年にわたって援助活動に携わってきたMSF日本会長の小児科医・加藤寛幸医師が、援助の現場で得た、大切な出会いや経験を綴る全13回の連載です。
※2018年4~6月、静岡新聞「窓辺」に連載された記事を掲載しています。
 

アロル島で魚をとる子どもたち

アロル島で魚をとる子どもたち

2回目の派遣先となったインドネシアのアロル島は、中央部に険しい山々が連なり、海岸沿いはわずかな平地を除けば切り立った崖がそびえていました。ジャングルの中の集落や海岸沿いの村にたどり着くのは容易ではありません。急な崖をよじ登らなければならないこともあれば、渓谷をずぶぬれになりながら下ったり、サンゴ礁の海岸で波にもてあそばれて上陸を断念せざるを得なかったりしたこともありました。

活動も終盤に入ったある日。事務所から一番遠い村に向かうため、モーターボートで夜明けと同時に出発しましたが、強風に邪魔され到着が大きく遅れてしまいました。灯台もない海域での夜間の航行を避けるため日暮れ前に事務所に戻る必要がありましたが、村の子ども全員に予防接種を終わらせようと考えたことが災いしました。結局2時間遅れで出発することになり、事務所には帰り着けず、その夜は燃料補給用に使っていた漁船の上で一夜を過ごすことになりました。

ボートで進むMSFチーム。海は静かに見えるが……。

ボートで進むMSFチーム。海は静かに見えるが……。

朝からの風は時間とともに強まり、そこに激しい雨も加わり、日付が変わる頃には嵐の様相を呈していました。船内には世界中から集まってきたかと思われるほどの無数のゴキブリ。僕はデッキで一晩風雨にさらされる方を選びました。その夜は永遠に続くかのように長く感じられました。

この恐ろしい一夜を共に耐えた現地スタッフも、懲りずに今では国境なき医師団の一員として世界を飛び回っています。
 

僕がそこへ行く理由 これまでの連載を読む

第1回:1人の少女との出会い
第2回:損をすると思う方を選びなさい
第3回:最も弱い人たちのために働く
第4回:東京→シドニー→バンコク
第5回:違法な子どもたち
第6回:マイゴマの笑顔
第7回:初日からストライキ
第8回:嵐の船上で

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