虫が見られない

 たぶん「正しい日本語」ではないと思うが、野菜が真夏のかんかん照りにさらされることを「やけどする」と筆者の近親者は呼ぶ。酷暑の今夏は、例えばナスが「やけど」したらしく、家庭菜園で水やりを欠かさず育てたのに、中身は「すかすか」だったという▲虫もまた、「やけど」したのか、あるいは「やけど」を避けているのか。列島全体、今年はあまり虫が見られないらしい。田んぼでバッタが跳ね上がる。そんな例年の光景も今夏はさっぱり、と昨日の記事にある▲多くの昆虫は体温調節ができず、気温が高いと体温も高くなる。強い日差しは身を焼くほど酷なのだろう。日陰に隠れて体温上昇を和らげているのかも、と専門家はみる▲セミの鳴き声もあまり聞かれないという。こちらは猛暑というよりも、大雨によるとみる専門家がいる。成虫になる夏を迎えると地表近くに上がってくるのだが、大雨で水浸しになった地中で溺れたのでは、と▲何年か過ごした地中を出て飛び立つ日はもう目の前だったというのに。多くのセミがどうやら抜け殻も残せなかったらしい▲「空蟬(うつせみ)」とはセミの抜け殻を指し、この世のことも指す。「やけど」といい、地の下の大水といい、異常気象という「うつせみ」は、ちっちゃな虫の世界に至るまで、まるっきり容赦がない。(徹)

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