幸せの国ブータン、10代の葛藤 京都、1日映画公開

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共同監督を務め、京大を訪れたブータン人のアルムさん(右)と、ハンガリー人のドロッチャさん=京都市左京区

 国内総生産(GDP)より「国民総幸福量」を追求し、幸福の国といわれるアジアの山国・ブータン。ドキュメンタリー映画「ゲンボとタシの夢見るブータン」は、21世紀に入って同国でも急速に進む近代化の中、ある10代の兄妹のリアルな日常や葛藤を等身大に映す。伝統や親の願いのはざまで揺れる姿は、どこの国の家族にも通じ合う。共同監督の2人が今夏来日し、京都大で講演した。

 ブータンは1971年に国連に加盟するまで長く鎖国を続けた。外国のテレビ番組や映画も99年まで解禁されなかった。ところが近年はスマートフォンを手に、会員制交流サイト「フェイスブック」や動画投稿サイト「ユーチューブ」を10代でも利用する。映画は、そうした時代の波を批判するわけでなく、逃れられない変化として、人々の暮らしぶりを静かに見つめる。

 共同監督を務めたのは、ブータン放送公社でドキュメンタリー製作に携わったアルム・バッタライさんと、ハンガリーで映画の歴史や理論を学んだ女性ドロッチャ・ズルボーさん。2014年、欧州で開かれた若手ドキュメンタリー作家の国際講座で出会い、「ブータンの移りゆく価値観を表現しよう」と企画した。

 京大こころの未来研究センター(京都市左京区)で年2回開かれる「ブータン文化講座」に招かれた2人は、映画製作の経緯を説明。ブータン初の女子サッカー代表チームの選抜合宿に取材に行ったところ、ボーイッシュで性的少数者(LGBT)とみられる少女タシ(撮影当時14歳)と出会ったのが転機となったという。

 タシの実家は、ブータン中部で1千年以上の歴史を持つ寺院。寺を守る父親は「タシは前世が男だったに違いない」と信じ、女の子らしく生きる努力をすることを諭す。また、兄・ゲンボ(撮影当時15歳)には、寺を継ぐため戒律の厳しい僧院学校に行くことを薦める。どちらも子どもの幸せや伝統を守りたい親心がにじむ一方、思春期の子どもたちは、どの生き方がいいのか、まだ分からない。

 監督のアルムさんは「日本でも通じる家族の葛藤があり、自分たちの問題として受け止めてもらえるはず」。ドロッチャさんは「ブータンはエキゾチックで時の流れもゆったりだが、家族のあり方、人間らしさを追い求める姿は、世界共通と気付いた」と語る。

 京大こころの未来研究センターの熊谷誠慈准教授(仏教学)は「幸福の国といってもブータンは決して桃源郷ではなく、ブータン人は私たちと同じ人間。等身大の日常を描き、ブータンの今を知る貴重な映画」と評価する。ブータンの寺に伝わる仮面舞踊などの風習、郷土料理も映し出す。出町座(上京区)で9月1日から公開される。