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「メディア機能」すらもキュレーション

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中瀨竜太郎

ノアドット株式会社CEO

中瀨竜太郎

ノアドット株式会社CEO

1975年4月生まれ。98年4月より日経BP社でPC誌の編集記者。2005年10月にヤフーに入社し、トップページ編集を経て、12年9月に「Yahoo!ニュース – 個人」を立ち上げる。13年11月に共同通信デジタルに入社し、15年4月に共同通信デジタルとヤフーの出資を得て、ノアドット株式会社を設立。

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 私たちのアプローチはまだ他のどこにも同じものがありませんが、URLに経済インセンティブを埋め込む、ということ自体は、まったく新しいアイデアではありません。「リンクのクリックでポイントが貯まる」というサービスは昔から多くありますし、“アフィカス”などと批判的に言及されがちなアフィリエイト・プログラムも同様です。

 何が従来の手法と異なるのでしょうか?

 それは、nor.がURLに埋め込んだ経済インセンティブは、キュレーターに38.2%の割合で分配を与えるというものであり、“PV乞食”的な誘導欲しさから来る割合とは考えられないほど高いという点です。

広告収益は、キュレーターが38.2%、コンテンツホルダーが61.8%の黄金比で分配されます。

 私たちは、収益を増やすインセンティブを作っているというよりも、コンテンツページの生成量やコンテンツ生産量を減らすインセンティブを作っているのです。

 同じ「広告収益を得る」という欲望に従うなら、より正しいほうがいい。みんなが100%を求めて作りすぎることで結果的に地獄化する世界ではなく、分け合うことで生産者にとってのメディア活動を持続可能にし、ユーザー体験も改善していこう。そういう「快楽だけど正しくもある」というのが、従来とは似て非なるアプローチであり、持続不可能なことが明らかな市場で重要なことでもあると考えています。

 また、単にURLに経済性を持たせるだけでなく、あくまでも参画するメディア同士で“共同運営”するドメインのサーバーのURLを使うことで、「ウェブが壊した「参入障壁」」に始まる記事群で紹介した、バラバラに動くことで発生しているメディア、広告主、ユーザーにとってのさまざまな弊害をいっぺんに解消することにつながっていきます。

 ユーザー視点では、ページのデザインテンプレートを共通化してコンテンツを配信することで、ユーザーが受け取る負荷が下がることも、これが「アイデア(理想)」であることを構成する重要な要素だと考えています。
 Yahoo!ニュースやSmartNewsなどが支持されているのも、ユーザーが供給者側の表現にあわせて「朝日新聞はここにあれがあって、読売新聞はこうで…」と頭を切り替えてデザインを受け止める必要がないから、という点もあるはずです。これについては、とある全国紙のマネジメントの方から、こんなことを言われたこともあります。

新聞は購読紙を変えたところで、急にまったく違う体験になることはない。題字くらいしか違わないかもしれない。ホームページの見栄えをそれぞれが勝手に作っていくっていうのは、実は新聞的じゃないんだよな。

■ 「機能のキュレーション」でメディアを設計

 通信社や新聞社に政治部、社会部、運動部などがあるように、私たちはnor.という基盤のうえで、あるメディアが政治部を、あるメディアが社会部を、あるメディアはサッカー部を、あるメディアはドラマ部を受け持ち、それぞれがnor.というニュースルームに出稿された記事から自メディアのユーザーに必要な文脈でコンテンツを選び、届けていく世界を見ています。

 このことは、現実離れした机上の空論とは言いきれません。以下は、ある県紙の経営企画の方の発言です。

○×(ある地域スポーツチーム)のファンで、うちの運動部の記者より詳しくて面白い記事を書いているブロガーがいる。ああいう人にnor.に記事を入れてもらって、そこにうちのトップページのスポーツコーナーからリンクを張って読者に届けてあげたほうが、価値があると思う。

職業記者ではない市井の人たちのコンテンツの中にも優れたものがウェブにはゴロゴロと転がっていて、新聞社がそれを必要だと発言する程度には変化は起こり始めているのです。

 メディアにとって重要なのは、コンテンツを届け続けることですが、その届けるコンテンツがすべて自分たちで作ったものである必要はなく、低収益なウェブに適応するためには他者のコンテンツをどう活用するかが重要になっていきます。制作機能と流通機能のキュレーションです。

 これまでは、メディアをやるときにはまず「コンテンツを作る」ところから入っていくのが常道でした。
 しかし、Googleやヤフーなどの大手ディストリビューターが支配する世界でそれをやると、彼らのアルゴリズムや編成方針に最適化して「ランディングページからのPV稼ぎ」にだけ向かうことにつながり、平準化を避けられません。

プラットフォームは、パブリッシャーのコモディティ化を進めた。パブリッシャーがプラットフォームのアルゴリズムから高く評価されることを望んで、同じタイプのコンテンツばかり作ってきたからだ。他社も制作しているコンテンツを制作するのはすぐにやめて、コンテンツ制作のアプローチを見直さなければならない。ほかの誰も制作していないコンテンツを作るべき。ハードルは高いが、うまくやれば、重要な構成要素が備わり、ターゲットにしているオーディエンスにとって必読のコンテンツになれる。

 これからは、

  • まず、自メディアのコンセプトやユーザーの文脈にマッチする他者のコンテンツを使い、ボリュームを確保する。
  • そのうえで、そのなかには見つからないオリジナルコンテンツを作る。

というメディア設計が求められていくはずです。
 このとき重要なのは、そのミッシングピースであるオリジナルコンテンツをもやはり他者にも提供する、ということです。なぜかというと、どんなに優れたコンテンツであっても、ユーザーが自ら動いて見に行くことは今後もないからです。一つの場所にだけ「独占」などといって置いておくのではリーチに限界があり、制作コストを回収して大きな収益につなげることはできません。
 あくまでも、「コンテンツが持っているポテンシャルユーザーを100%カバーする」という考え方が重要で、そのコンテンツを作った自分たちのメディアとは異なるコンテクストを付与してもらい、届けきってもらうことが大切です。

 nor.が流通や収益化にかかるインフラコストを水平統合し、コンテンツホルダーがキュレーターのために制作コストを負い、キュレーターがコンテンツホルダーのためにマーケティングコストを負う ── 私たちは、このようにして協力し合うことで遊休資産を活用しあうことを「メディアのシェアリング・エコノミー」と呼んでおり、これがメディアが主導権を持って新しいゲームを作る機会だと信じています。