【自民総裁選キーパーソン・上】菅、「安倍圧勝」へ存在感

 柔和な笑みの合間に見せる勝負師の目が、1カ月後の政治決戦に懸ける本気度を物語っていた。

 

 8月7日午後、首相公邸。洋菓子・モンブランとコーヒーで首相の安倍晋三からもてなしを受けた約20人の横浜市議を前に、官房長官の菅義偉(衆院神奈川2区)は多くを語らなかった。「目指しているのは、他を寄せ付けないほどの圧勝」。ある市議は、この時期に安倍と向き合う場が設けられた意味をこう読み取った。

 

 あえて何も言わず、その場の空気で真意を伝える。それが、数々の修羅場をくぐり抜けてきた「キングメーカー」のすごみだ。この日も改憲の意義を熱っぽく語る安倍の隣で、引き立て役に徹していた。

 

 5年8カ月にわたる第2次安倍政権の懐刀として、圧倒的な存在感を示す菅。その発言力は絶大で党内の派閥領袖らからも一目置かれるが、目立つ行動は多くない。そんな巨岩が動いたのは、安倍が連続3選を目指して正式に出馬表明する3日前、8月23日だった。

 

 〈安倍晋三自民党総裁との懇談会のお知らせ〉

 

 党に所属する県内の国会・地方議員らに届いた安倍来県の通知。31日に横浜市内で開催する趣旨を淡々と連ねた文書の差出人は、6年前の総裁選で「もうひと花咲かせたい」と安倍の背中を押し、再登板の流れをつくった菅と元経済再生担当相甘利明(13区)だ。

 

 当時の立役者が再びタッグを組み、地方票で石破茂に敗れた6年前の借りを返す-。2人が名を連ねた理由をこう解説する県議は「首相側近のお膝元で、圧勝に向けた覚悟と勢いを他都道府県に見せつける狙いもある」と続ける。

 

 党第2派閥・麻生派の重鎮で安倍選対の事務総長に就いた甘利と、政権の実績アピールと自らを慕う無派閥議員の結束に奔走する菅。党内の無派閥国会議員73人のうち約30人が「菅グループ」とされ、研修会など緩やかなつながりを通じて安倍支持を固めている。

 

 衆院で当選4回以下の十数人でつくる「ガネーシャの会」はその代表格で、ヒンズー教の神の名を政権守護神のイメージに重ねた。会長を務める総務副大臣の坂井学(5区)を筆頭に「菅イズム」を受け継ぎ、地方票集めにも余念がない。

 

 ただ、6年前に「安倍をよろしく」と依頼した地方議員への電話は、今のところない。周囲には「過去の人とみられていた安倍を推した前回とは、既に状況が違う」などと自信を見せ、神奈川の一部議員の支持動向にも目を光らせる。

 

 現状で総裁選への態度が見通せないのは3人。総務相の野田聖子が出馬できれば支持するとされる防災担当相の小此木八郎(3区)と前回石破の推薦人になった三原じゅん子(参院神奈川選挙区)。そして、6年前に石破に1票を投じた党筆頭副幹事長の小泉進次郎(衆院11区)だ。

 

=敬称略

菅義偉官房長官

© 株式会社神奈川新聞社