鈴鹿10時間:グッドスマイル、100点満点の仕事で殊勲の5位も「リベンジはまだ」

 8月24〜26日に、鈴鹿サーキットを舞台に争われたインターコンチネンタルGTチャレンジ第3戦・第47回サマーエンデュランス 鈴鹿10時間耐久レース。初開催のレースはトップ4を海外チームが占める結果となったが、日本チームとして5位に食い込んだのが、2017年のGT300チャンピオンチーム、メルセデスAMG・チーム・グッドスマイルだ。

 2008年、スーパーGTの一戦だった鈴鹿1000kmでデビューを飾った初音ミクGTプロジェクト。そこからさまざまに体制が変わり、いまやGOODSMILE RACING & Team UKYOとが走らせる初音ミクを描かれた“痛車”は、スーパーGT GT300クラスの最強マシンの一台として君臨。活動10年目を迎えた2017年には、チームとして初めてGT3レースの最高峰であるスパ24時間に挑戦した。

 チームもファンも全幅の信頼をおく谷口信輝/片岡龍也のコンビに加え、小林可夢偉を加えての挑戦となった17年のスパだったが、予選でサスペンショントラブルを抱え、オールージュでクラッシュ。高い注目を集めた桜と日の丸があしらわれたミク号は全損となり、急遽“2号機”が用意されたものの、レース中に他車に激突されリタイア。初の挑戦は悔しい結果に終わっていた。

■ほぼノーミスのレース運び

 チームは今季、鈴鹿10時間の開催が決まると、スパ24時間のリベンジを果たすべくいち早く参戦を表明した。ドライバーも同じ谷口/片岡/可夢偉というトリオ。ただ、昨年はイギリスのRAMレーシングに任せていたメンテナンスを、今季はスーパーGTでメンテナンスをするRSファインが行った。

 マシンは昨年のリベンジという意味合いからも、同様の桜と日の丸の初音ミクカラーに彩られたが、今季はメルセデスAMGが認めた『AMGパフォーマンスチーム』に決定。AMGのロゴとラインが加わり、“ワークス”の佇まいを漂わせての挑戦となった。

 そんなチームの2018年の挑戦は、多くのサポーターに見守られながらの戦いとなった。予選では、小林可夢偉がシュートアウトでセクターベストをつけながらアタックをみせるも、最後は赤旗によりタイムを記せず、21番手からスタートすることになった。

 しかしレースでは、序盤こそ中団での戦いを強いられたものの、「レース全体を見るとほぼノーミス(河野高男エンジニア)」と言える戦いをみせ、スーパーGTチャンピオンチームの底力をみせつけた。今回のレースでは、ピットインからアウトまでの時間が82秒と定められていたが、ほぼすべて82秒台で出られていたというから驚きだ。

 上位にトラブルやアクシデントもあったことから、残り1時間を切って5番手まで浮上したメルセデスAMG・チーム・グッドスマイルの00号車。ただ、残り30分が近づき、グランドスタンドのファンに配られたサイリウムが灯りだすと、後方から08号車ベントレー・コンチネンタルGT3がアンカーの片岡の背後に近づいて来た。

 たかが5位、されど5位。トップ4は海外の“ワークス”。後方から来るベントレーも“ワークス”だ。昨年のスパでは見えない存在だったライバルたちとの争いに負けるわけにはいかない。場内のピットレポートを通じて、「片岡、がんばれ!」と谷口から檄が飛ぶ。

 場内実況のピエール北川さんからの“あおり”もあり、グランドスタンドのサイリウムは、みるみる“ミク色”のグリーンに染まっていった。この声援に後押しされた片岡は、少しずつ08号車ベントレーを退けると、見事5位でチェッカーを受け、アジアチーム優勝という結果を得た。

■「またリベンジしたい」。緑のサイリウムには“ジワっと”

 この日の戦いを、河野エンジニアは「トップの4台は、次元が違いすぎて全然無理だった。やっぱり、初めてこのクルマでピレリを使っている部分も含めて、まだ使いこなせていないのかなと思う」と振り返った。多くの日本チームにとって、やはりワンメイクタイヤへの習熟は重要と言える。

 ただ、この5位という結果を「悔しいけど、100点満点」と河野エンジニアは評した。「ウチらも“ワークス”だから言い訳はできないけど、HWAの協力のもと、最終的に形にはできたと思うし、いい勉強をさせてもらったと思う。ドライバーもノーミスで、完璧にやってくれたから」

 逆に、パーフェクトなレース運びながら、前に4台いるのも事実だ。チームの安藝貴範代表に「昨年のリベンジは果たせましたか?」と聞くと、「リベンジは……果たせていませんね(苦笑)」と語った。

「でもミスもなくやれることをやれたし、十分な結果だったのではないでしょうか。最後はTK(片岡)も盛り上げてくれたし、ファンの皆さんも喜んでくれたと思います」と安藝代表。

「またリベンジしたいですね。去年の時点では見えない差だったのが、どうすればいいのか、どれくらいの差があるのかも分かりましたから」

 安藝代表には、最終スティントで“ミク色”に染まったグランドスタンドについても聞くと、こんな返事がきた。

「最後はピエール北川さんがいい仕事しましたね(笑)。ちょうどいま大阪で『マジカルミライ』というイベントをやっていて、そのときも緑のサイリウム一色になるんですよね。その前ですごい戦いをしてくれた。ちょっとジワっときましたよね」

 この夜のグランドスタンドの光景は、たしかに08年の鈴鹿を見て、まわりのレファンからの“痛車”への視線を感じていたチームの広報氏も、筆者も“ジワっと”くるものではあった。次なる世界への挑戦では、どんな光景をファンとともにみせてくれるのだろうか。

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