【女子W杯】「カーブ」と「魂」 3大会連続MVP、侍J女子代表・里を支えた2つの進化

3大会連続MVPを獲得した侍ジャパン女子代表・里綾実【写真:Getty Images】

侍ジャパン女子代表は6連覇、牽引したエース里「最高の形で結果となった」

「第8回WBSC 女子野球ワールドカップ」(8月22~31日、米国フロリダ)で侍ジャパン女子代表のエース・里綾実投手(愛知ディオーネ)が3大会連続のMVPを獲得した。

 チャイニーズ・タイペイと対戦した31日(日本時間1日)の決勝戦。3大会連続で決勝のマウンドに上がった里は、思わぬ苦戦を強いられた。最速126キロを誇る直球を捉えられ、4回まで毎回走者を背負う。

 28日(同29日)アメリカ戦での7回2死まで無安打無得点の快投から中2日。「疲れはありませんでしたが、初めて決勝に来た台湾は勢いがあります。これまでの経験が邪魔をして、この場面で打たれたらどうしようという考えがよぎってしまいました。緊張で水を飲んでも喉がカラカラで何度もうがいをしました」。

 自身の心理状態をそう振り返った里だが、百戦錬磨の絶対エースは三塁を踏ませなかった。2回無死一、二塁のピンチでは、スライダーで空振り三振を奪った後、直球で中飛と二ゴロに討ち取る。4回2死一、二塁で空振り三振を奪うと、ガッツポーズをしながら雄叫びを上げた。

 気迫あふれる投球は、味方打線の援護を呼ぶ。初回に2点、2回に1点、4回に3点。「初回に点を取ってくれたのが大きいです。つないで点を取ってくれ、行けると確信して、腕を振ることができました」と仲間に感謝した。5回6安打無失点で3勝目。今大会4試合19回を投げて3勝で防御率0.37と圧巻の成績で公約通りMVPを獲得した。「この2年間やってきたことが最高の形で結果となりました」と笑顔で胸を張った。

里を支えた木戸克彦コーチの言葉「もっとボールに気持ちを込めるように言われた」

 10年から5大会連続で代表入りしている里が毎回目指しているのは、決勝のマウンドに上がり、チームに貢献して、優勝すること。そのために2年間を過ごしている。

 今大会は2つの大きな進化があった。一つは投球スタイルだ。前回までは直球とスライダーで力に頼っていたが、16年大会後に新たにカーブを習得。今大会は、冷静に打者の打ち気を感じ取り、勇気を持って緩いボールを使いこなした。

 もう一つの進化は、阪神から派遣された木戸克彦ヘッドコーチの言葉がきっかけだった。「(7月末の)新潟合宿で、レベルは上がってきているけれど、計算し過ぎて淡々と投げている。もう一つレベルを上げるためには、『引っ掛けろ』とか『振ってくれ』とかもっとボールに気持ちを込めるように言われました。今大会それができたことは成長かなと思います」。1球1球、丁寧に魂を込め、1アウトを取る毎にベンチの仲間とも声を掛け合った。そんなエースの姿が、平均年齢21歳と若い選手を鼓舞し、チーム全体をも成長させた。 

 年々、他国の打者のレベルは上がっている。「振ってくるバッターが増えて、ホームランも増えている。一発を警戒しながら丁寧に投げました」と話す。世界のレベルが上がることは大歓迎だ。「自分も負けずに『里はすごい』と言ってもらえるように、さらなる高みを目指したいです」とモチベーションにする。31歳で迎える2年後には、一体どんな進化を見せるのか、今から楽しみだ。(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

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