サッカーJ1、V・ファーレン長崎は今年、次世代を担う選手の育成を本格化している。U-18やU-15のユース年代がプレーする下部組織チームに経験豊富な指導者を集め、海外名門クラブとは育成面の協力関係を結んだ。Jクラブの多くで10代プレーヤーが存在感を示す中、V長崎で活躍する下部組織出身者はまだいない。選手獲得のための資金面が他クラブと比べて潤沢ではないV長崎にとっては、Jリーガーを自前で輩出できるかどうかが大きな鍵を握る。
■育成部を新設
「今年をゼロから新しいものを生み出す年にしたい」
4月。ドイツ1部リーグの強豪レーバークーゼンとパートナーシップを結んだ席上で、V長崎の育成部長、松田浩氏(57)=長崎市出身=は宣言した。
V長崎U-18チームの2017年の成績はプリンスリーグ九州6位。16年は県1部リーグ、15年は県2部リーグだったことを考えると、順調にランクアップしているが、Jクラブの中ではまだ見劣りしている。
そんな下部組織チームを国内トップレベルに引き上げるために新設したのが育成部。神戸や福岡で監督を務め、日本サッカー協会ナショナルトレセンコーチだった松田氏をトップに据えた。
以降、育成部の動きは目に見えて活発だ。「原石」を探すために小中学生の試合会場に足しげく通い、レーバークーゼンからは育成コーチや選手を招いて、現場に世界レベルの指導、技術を体感させた。年内にはV長崎から有望選手をドイツに短期留学させる予定。「地域全体の底上げも必要」と、県内クラブチームの監督らを招いた講習にも力を入れている。
もう一つ、実現に向けて動きだしているプロジェクトがある。ユース年代の選手寮の新設だ。トップチームも使用する諫早市の練習場に隣接させ、選手たちを24時間体制でサポート。高校と連携して、栄養学や一般教養をしっかり身につけさせたいと考えている。
松田氏は「メンタルが大事とよく言われるが、単に負けん気や礼儀を大事にすればいいわけではない。サッカーの技術はもちろん、語学力やコミュニケーション能力などを含めた人間力が高い選手こそ、長く第一線で活躍できる」と力説する。
■地元の受け皿
選手の入れ替わりがとりわけ激しいプロサッカー界において、帰属意識が強く、各クラブの掲げるサッカーが染みついた生え抜き選手の利点は多い。例えば、メッシやイニエスタはバルセロナの、ベッカムはマンチェスター・ユナイテッドの下部組織出身。長期的なチームづくりをしていく上で、必要不可欠な存在と言える。
Jリーグでは、C大阪、大分、鳥栖などが成功例。これらのユースチームに、長崎県内の有望選手が多く流出しているのもまた事実だ。V長崎が下部組織を発足させたのは2010年。他クラブに後れを取っており「将来有望な地元の子どもたちの受け皿にならなければ」という危機感は関係者に共通している。
Jリーグ強化・育成部の高野剛氏は「昨年U-15チームが国内2冠を獲得した鳥栖は、12年のJ1昇格を機に一気に強化が進んだ。長崎も力を入れるタイミングとしてはベスト」とV長崎の動向を注視する。松田氏は「順調に来ている。近い将来、トップチームに昇格できる選手が出てくるはず。良い環境を与えた上で厳しさを求めていきたい」と意欲を見せる。