障害者の現実 学びの輪 県内と関東の大学、専門、地域超え

 障害のある当事者や福祉関係者らに直接、障害者の現実の姿を学んでいる東京大など関東の学生が8月下旬、本県を訪れ、長崎大や長崎純心大などで医療や福祉を学ぶ学生の団体「長崎多職種連携・たまごの会」と交流した。大学や専門分野を超えて関東と長崎で活動している若者たちが、障害に伴う「生きづらさ」や更生の現場の状況とともに、互いの取り組みを学びあった。

 本県を訪問したのは、東京大や慶応大などの学生計10人。普段は「障害者のリアル」をテーマにした東大のゼミを拠点に、難病患者ら当事者の話を聞くなどして実情を理解する活動をしている。今回参加した大半は法学部や工学部、経済学部など、医療や福祉とは別分野の学生たちだ。
 一方、たまごの会は2015年に発足し、現在は約40人が所属。地域医療などを支えていくため、学生(たまご)のうちから専門領域を超えた交流を深め、将来的に多職種連携を図り、「地域と学生の懸け橋」になることを目標にしている。
 初めて県外学生と交流し、たまごの会の部長を務める長崎大医学部3年、藤本鴻さん(20)は「多職種を掲げながら今は医療と福祉系ばかり。今後も県内外のさまざまな学部の学生と交流し、補完し合えれば、会の可能性が広がる」と意義を強調した。
 この日は、累犯障害者を福祉とつなぐ活動をしている県地域生活定着支援センターの伊豆丸剛史所長が、自身の経験を基に累犯障害者の更生における地域支援の在り方について解説。「罪を犯す前から社会に排除されていた人が多い」とし、犯罪行為だけにとらわれず、成育歴なども踏まえて適切な支援を考えていく必要性を説いた。
 関東の学生は2泊3日の滞在中、知的障害のある人の恋愛、結婚、子育てを支援する「結婚推進室ぶーけ」など、社会福祉法人南高愛隣会(雲仙市)の施設も見学した。
 東京大教養学部3年、大島真理佳さん(20)は「『福祉=弱者のため』という印象があったが、現場で働く人が全員楽しんでいて福祉への印象が変わった」。たまごの会との交流にも刺激を受け「さまざまな興味、関心が集まれば行動力が生まれる。(たまごの会と)今後も交流を続け、東京でも同様の集まりを開きたい」と意欲をみせた。
 社会保障制度を学んでいる学生は「机上(教科書)と現場のギャップが大きい。障害者が地域の中でどう暮らしているのか、制度を作る前に現場を知る必要がある」、発達障害があると明かした別の学生は「(発達障害者は)『やりたいこと』と『やれること』が違う。他の人の考え方を聞きながら、当事者として何ができるかも考えていきたい」などと話した。
 伊豆丸所長は「将来的に福祉に直接関わらなくても、交流を通して『社会には生きづらさを抱えている人がいる』という実情を理解してくれる輪を広げていくことが大事だ」と、若者の行動力に期待を寄せた。

互いの活動などを紹介し合う関東の学生と「たまごの会」メンバーら=諫早市福田町

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