船で帰宅困難者搬送、10年ぶり水難救助 東京都・中央区・港区、首都直下想定合同防災訓練

2日に中央区の浜町公園で行われた倒壊建物の消火訓練の様子

東京都は8月31日と9月2日、中央区・港区と合同防災訓練を実施した。年に1回、都が区市町村と合同で行っているもので、都内最大震度7の首都直下地震を想定。2日は都と両区のほか警視庁や東京消防庁、陸上自衛隊など関係機関からの約3000人を含む合計約7000人が参加。時折雨が降る中で、初期消火といった一般向けの自助・共助訓練や、倒壊現場からの救出のほか、水辺の多い両区の特性を生かし、船による帰宅困難者の搬送なども行われた。

8月31日は小池百合子知事が新宿区の都庁までパトカーによる登庁訓練を実施。その後、都庁で都災害対策本部審議訓練を開催した。まず警視庁や東京消防庁、陸上自衛隊のほか建設局や福祉保健局、港湾局といった都各部局からの首都直下地震に関する報告を実施。区部東部での大規模火災の発生などが説明された。また中央区と港区の災害対策本部ともテレビ電話をつないだ。港区からは品川駅などでの帰宅困難者の滞留に関する報告があった。災害時に被災自治体に派遣されるJETT(気象庁防災対応支援チーム)からは、地震後に大雨が予測され土砂災害への備えが必要なこと、熱中症への注意が呼びかけられた。

小池知事(前列右から3人目)がいる都庁と中央区・港区の防災対策本部をテレビ電話でつないで会議を行った

小池知事からは(1)都民の生命を第一に救出活動を(2)関係機関の万全の連携と情報共有(3)インフラや道路、河川の被害確認と早期復旧(4)先を読んだ早めの被災者支援と熱中症など二次被害の発生防止(5)被害や生活に資するものなど都民への情報発信とデマ・フェイクニュース対策-の指示がなされた。

陸上自衛隊はゴムボートでバイクを輸送しお台場海浜公園に上陸

9月2日、港区にあるお台場学園では主に一般向けの自助・共助訓練を実施。消火栓から災害時に必要な水を確保し、運ぶ訓練や初期消火訓練などが行われた。近くのお台場海浜公園では2008年の都と中央区・江東区との訓練以来10年ぶりとなる区部での水難救助訓練を開催。陸上自衛隊がゴムボートでバイクを搬送。上陸後にバイクで状況確認。東京消防庁、海上保安庁、警視庁は揺れで海に転落した人の救助を実施。さらに東京消防庁は船からの放水により、コンテナターミナルから流出した燃料油を拡散する危険排除訓練も実施した。台場付近に発生した帰宅困難者の搬送では、東京都観光汽船の定員283人の船「海舟」が、お台場海浜公園の水上バス乗り場から中央区にある浜町防災船着場まで約45分をかけて移動した。

帰宅困難者搬送訓練に用いられた「海舟」

写真を拡大 「海舟」の航路。画像下部のお台場海浜公園から上部の浜町防災船着場まで黄色のラインを移動(Google Earthを基に作成)

中央区の日本橋タワーからも外国人を含めた帰宅困難者を船で同じく浜町に移送。ほかにも船を用いた訓練としては水上タクシーで医薬品、水上バスで医療関係者の台場地区への輸送、浜町船着場付近の隅田川での延焼防止のための一斉放水訓練なども行われている。

医薬品の輸送に用いられた東京ウォータータクシー

中央区ではメイン会場である浜町公園近くの明治座の屋上からヘリコプターを使った救出訓練が行われ、屋上に避難した人を東京消防庁のヘリが救出した。浜町公園では倒壊や出火した建物からの救助訓練を陸上自衛隊や東京消防庁、警視庁などが実施。最後に消火のための放水が行われた。

ヘリによる明治座屋上からの救助訓練

今回の訓練は在勤者や外国人が多いほか、東京湾や隅田川といった水辺が多い中央区・港区の特徴から、帰宅困難者対策やビルからの救助、船による人や物資の移送といった取り組みが実施された。小池知事は訓練後の講評で「備えを強固にし、職場や地域の取り組みに期待したい」と述べた。さらにその後の取材に応じ「水辺を使った輸送は有効だと思う」と説明。2020年東京オリンピック・パラリンピックも控え、観光などによる増加が予想される外国人については「いざという時に混乱を起こさないよう情報の伝え方にも工夫が必要。交通機関などでもチェックしてもらっている」と述べた。都民に向けては「『東京防災』や『東京くらし防災』をぜひ読んでほしいし、都の発信するネットでの情報も見てほしい。今は災害が頻発して人々の危機意識は高いが、落ち着くと忘れがちになる。今後も防災のノウハウと自助・共助・公助について発信していく」と語った。

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(了)

リスク対策.com:斯波 祐介

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