『累 -かさね-』 容姿×才能、不思議な口紅を使い二人の女優が顔を入れ替える

(C)2018「累」製作委員会 (C)松浦だるま/講談社

 『まれ』の土屋太鳳×『べっぴんさん』の芳根京子。“朝ドラ女優”がW主演したサスペンスフルな愛憎劇だ。美醜をテーマにした松浦だるまの同名漫画が原作で、キスした相手の顔を奪い取ることができる不思議な口紅を使って女優としてのし上がっていくヒロインを、一人二役=二人一役で体現する。

 伝説的な大女優を母に持ちながら容姿に劣等感を抱く累は、実は天才的な演技力の持ち主。一方、美しい容姿に恵まれたニナは、ある理由から女優として芽が出ずにいた。互いの欲望が一致した二人は、協力して新進気鋭の舞台演出家の心を射止めるのだが…。

 そもそも二人一役や一人二役はとても映像向きの題材だが、『ストロベリーナイト』の佐藤祐市監督は趣向を凝らした演出で、二人の“入れ替わり”を時に衝撃的に時に官能的に描き出す。それによって、美醜だけでなくアイデンティティーの問題までも考えさせるのだ。

 さらに言えば、累の才能の源は母親へのコンプレックスであり、その母親の代表作だったオスカー・ワイルドの舞台劇『サロメ』を自身も演じるという一種の入れ子構造が、重要な伏線であると同時に、物語に深い奥行きをもたらしている。しかも、女優自体が他人に成り済ます職業だと考えると、本作は“女優論”としても深いのである。★★★★☆(外山真也)

監督:佐藤祐市

出演:土屋太鳳、芳根京子、浅野忠信

9月7日(金)から全国公開

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