鈴鹿10時間:GT500ドライバー3人をそろえたHonda Team MOTULも結果は伴わず。「準備が必要」

 8月24〜26日に、鈴鹿サーキットを舞台に争われたインターコンチネンタルGTチャレンジ第3戦・第47回サマーエンデュランス 鈴鹿10時間耐久レース。このイベントには国内外から多くのエントリーがあったが、そのなかでも注目だったのは、山本尚貴/武藤英紀/中嶋大祐というGT500ドライバーたちがドライブした、Honda Team MOTULの10号車ホンダNSX GT3だった。ただ、レースは18位という結果に終わった。

 今季から始まった鈴鹿10時間は、FIA-GT3規定車両による“世界一決定戦”として争われたイベント。そこにホンダは、スーパーGTに参戦しているCARGUY Racing、Modulo Drago CORSEというカスタマー2チームに加え、ホンダの名を冠した『Honda Team MOTUL』を結成。GT500ドライバー3人を揃える必勝体制でレースに臨んでいた。

 しかし期待の高さとは裏腹に、レースウイークは思うような順位を残せなかった。予選では3人のドライバーがそつなくタイムを刻み、6分14秒142という合計タイムでQ2のポール・シュートアウトに進出するも、グリッドは24番手だった。

■決勝を見すえた準備を進めるも……

 今回のチームは無限やJASモータースポーツのスタッフが多く携わる体制が敷かれていたが、やはり事前のテスト不足が大きく影響したのは間違いない。また、テスト時からもコンディションが変化しており、その合わせこみに苦戦した様子だ。

「走りだしは乗りづらく感じましたね。良かれと思って持ってきたものがちょっと方向性が違ったので。ただ、そこからセットアップを作り上げていくまでは早かったです」と予選前に教えてくれたのは武藤だ。

 また、山本も「事前のテストに比べるとちょっとバランスが違っていました。やはりこのタイヤ(ピレリのワンメイクタイヤ)はクセがあるので、タイヤに合わせたセットも大事ですし、NSXはキャラクターとしてもうしろが重い分、オーバーステアが強い」と語っていた。

 とは言え、Honda Team MOTULが見据えていたのはあくまで決勝だ。予選で前にいき、決勝でペースを落とすよりも、決勝で安定したラップを刻めるマシン作りに専念していた。今回、チームをまとめる役柄として起用された中野信治監督はこう語っている。

「準備時間は短いけれど、それは言っても仕方のないこと。そのなかで何ができるかが大事で、それが我々のタスクですからね。みんなには何度も『とにかくネガティブな言葉を言わないでくれ』と言っています。変にガツガツしても仕方ないし、とにかく決勝をターゲットにしたい」と中野監督。

「言っても何も変わらないし、良くできる部分を良くしていこうと思っています。ポジティブなイメージだけをもってやっていけば、条件は厳しくてもいい結果をつかめると思っています。ドライバーもスタッフも、エンジニアも能力が高い人が集まっていますから」

■ほぼノーミスのレースも「勝負になっていなかった」

 ただ、結果としてHonda Team MOTULの10時間の戦いで残ったのは、18位というリザルトだった。今回のレースはピット作業時間も決められており、いかにレースペースを高く保つかが重要なレースだったが、その点でNSX GT3勢は苦しい戦いを強いられた。

「まったく勝負になっていなかったですね。もし来年も出られるのであれば、もっと準備してちゃんと勝負したいです」と山本が語れば、武藤も「トップグループから見たらペースは良くなかったですが、現状でもっているポテンシャルを引き出すことはできたと思っています。ただ、事前にデータが必要なのもすごく分かりました。とてもじゃないけど、この週末だけでまとめ上げるのは不可能ですね」と語っている。

 また、大祐も「やはりこのピレリを使ってふだんから戦っているメーカーが強かったという印象ですね。NSXはまだピレリを使ってあまりレースを戦っていないと思うんですが、その点での苦しさはありました」と振りかえった。

 レース中はほとんど大きなトラブルもなく、「ドライバーもチームもミスはなかった(大祐)」という戦いだったが、それでもGT500ドライバーを擁してのこの結果は、ファンにとっては不満なものだろう。

 原因はドライバーたちも語っているとおり、事前の準備不足が大きい。2回のテストのうち、一度はウエットで、もう一度はドライだったものの、スポーツ走行を使ってのもの。走行時間が少なかったことが結果に繋がったと言っても過言ではないだろう。

 GT3カーは“買ってすぐ戦える”のが特色ではあるが、チーム、ドライバーの要素の習熟がトップチームに比べ足りないと、GT500ドライバーたちでさえ苦戦を強いられるのが、今のGT3レースの厳しさと言えるだろう。今回参戦した3台のNSX GT3のなかで、決勝中のファステストラップを記録したのがピレリとGT3を熟知しているCARGUY Racingのケイ・コッツォリーノだったのは、無関係ではないはずだ。

■「来年戦えるのであれば、もっと準備をして勝負をしたい」

 とは言え、3人のドライバーたちにとっては、ふだんのスーパーGTとは異なる耐久レースは、純粋に楽しめるレースだったようだ。

「自分たちがもう少しいいところにいければ、もっと楽しかったとは思いますけど(苦笑)」というのは大祐。

「個人的には、1000kmがなくなったので少し寂しい部分はあったのですが、実際に10時間が始まってみると、朝から晩までレースを戦っていてお祭りの印象もありますし、同じクラスのクルマだけが集まるからこその雰囲気もありますよね。ドライバーとしては楽しめたと思います」

 また武藤も、「レース全体としては楽しかったです。海外の強豪や、道上さんたち(Modulo Drago CORSE)と走ることができましたし、ふだん体験できないことができたと思っています」という。

「来年も可能であればやってみたいです。ただ、事前にデータが必要なのもすごく分かりました。とてもじゃないけど、この週末だけでまとめ上げるのは不可能ですね。もしやるなら、事前にちゃんとテストしたり、レースに出たりしないといけないですね」

 そして、「もし来年も出られるのであれば、もっと準備してちゃんと勝負したいです。でも、武藤さんと大祐と一緒にやれたのは、すごく楽しかったですね」というのは山本だ。そして、「今回ラップタイムは遅かったですが、遅い、速いよりもクルマのバランスや運転のしやすさ次第で、体の疲労度は変わってきましたね」とGT500とは異なる戦いの厳しさも教えてくれた。

「体にかかるストレスはずっとGT500の方がありますが、このカテゴリーはダウンフォースが少ないしクルマも重いけど、グリップが意外と低く、タイヤの落ちがあるなかで、クルマをコントロールしなければいけない大変さがあります。だから、神経の方が疲れる感じです」

 ふだんはGT300として接しているマシンに乗り、ふだんとはまったく異なる性格のタイヤでの戦いは、GT500ドライバーたちにとっても、新たな経験となったようだ。当然、ホンダファンにとっても今回の鈴鹿10時間は満足のいく結果ではない。今後のGT3マーケットでの販売促進を考えても、来季こそホンダの地元で“速いNSX”をみせてほしいところだ。

© 株式会社三栄