カナダで開催されていた第42回モントリオール世界映画祭で4日(日本時間)、授賞式が行われ、木村大作監督の映画「散り椿」が最高賞に次ぐ審査員特別グランプリを受賞した。昨年末に66歳で亡くなった作家葉室麟さんの小説が原作。主演の岡田准一さんが、藩を追放されながらも不正に立ち向かう侍を演じた。葉室作品では、4年前に映画化された「蜩ノ記」にも岡田さんは出演している。本格時代劇「散り椿」と原作者に注目した。(構成 共同通信=柴田友明)
時代劇映画「散り椿」の完成報告記者会見は8月27日、東京都内で行われた。
同日の共同通信記事によると、木村大作監督は「スピードに関して言ったら三船敏郎、高倉健、仲代達矢、勝新太郎を上回る」と岡田准一さんの殺陣の動きを絶賛した。岡田さんは「すごい人たちの名前が出てきたので、くらくらしてどうしたらいいか分からない」と恐縮していた。岡田さんは妻の最期の願いを胸に、追放された藩に戻り不正に立ち向かう男を演じた。メガホンを取った木村監督は1958年に映画界に入ったベテラン。監督の「これまで見たことがない殺陣を」との要望に、アクションには定評のある岡田さんが「作っては壊し、作っては壊し」(岡田)と、形を作り上げていったという。
原作の葉室麟さんが亡くなったのは昨年12月23日。地方紙記者を経て54歳で作家デビュー、直木賞を受賞した「蜩ノ記」(ひぐらしのき)はじめ、自らの信念で凜とした生き方を貫いた武士たちを描くことが多かった。藤沢周平さんが架空の「海坂藩」を何度も小説に登場させて山形、東北の地を作品の舞台にしたように、葉室さんは架空の「羽根藩」で大分、九州の地を題材に扱った。遅咲きながら12年間で膨大な歴史・時代小説を書き続けた。
代表作「蜩ノ記」は映画化され4年前に上映された。架空の「羽根藩」が舞台で、幽閉され家譜編纂(藩の歴史編修)と〝10年後の切腹〟を命じられた主人公を役所広司さんが演じた。見張り役ながら、その清廉さに心打たれる若き藩士を岡田准一さんが務めた。命を区切られた人物の凄惨な覚悟、山あいの静かな田園風景の中で繰り広げられる人間ドラマを、名優たちが演じきった。
藩にとって都合の悪い事実を書き残そうとする主人公が、書くなと迫る家老に「生きた事実を伝え、うそ偽りのない歴史を書き残すことができれば、それこそが武家のかがみ。御家は必ず守られると信じております」と切り返すシーンは圧巻だった。
モントリオール世界映画祭では中田秀夫監督の「終わった人」に出演した舘ひろしさんが最優秀男優賞を受けた。「終わった人」は、内館牧子さんの小説が原作で、舘さんは定年を迎えた元エリートサラリーマンを演じた。