MSF日本会長・加藤寛幸医師
2003年から15年にわたって援助活動に携わってきた国境なき医師団(MSF)日本会長の小児科医・加藤寛幸医師が、援助の現場で得た、大切な出会いや経験を綴る全13回の連載、ついに最終回です。援助活動は「無駄な努力」に過ぎないでしょうか?加藤医師はこれからも、やらなければいけないことを続けます。
※2018年4~6月、静岡新聞「窓辺」に連載された記事を掲載しています。
2016年、熊本地震の緊急援助に参加
「人道援助」と言われてピンと来る人、多くないですよね。
調べると「人道」は人として守り行うべき道、「人道援助」は人道的危機に対して行われる援助とあります。しかし、実際には今でも人道援助はとても特別で、物好きな人のもの、金持ちの道楽のように扱われていると感じます。僕の思う人道援助は、転びそうな人にとっさに手を差し出すようなものなのですが。
講演会で小学生に「戦争はなぜ終わらないんだろう?」と聞いて、「お金がもうかるからでしょ」という答えにがくぜんとした経験は一度や二度ではありません。子どもたちは知っています。大人がお金のために戦争し人を殺していることを。一方で、国境なき医師団の街頭募金で「人道援助は砂漠に水をまくようなもの」と言われたことがあります。戦争を止めなければ人道援助は意味がないと思うのでしょう。だからと言って本当に活動をやめてしまってもいいでしょうか。無駄のように思えてもやらなければならないこと、ありますよね。
バングラデシュのロヒンギャ難民キャンプにて
人道援助に参加する方法には活動参加や寄付がありますが、きっと同じぐらい大切なのは関心を持つことだと思います。これまで僕の拙い文章を読んでくださった皆さんはもうチーム国境なき医師団の一員です。
エボラ出血熱やバングラデシュの話など、伝えたいことがたくさんありますが、今日が最終回です。いつか皆さんにお話する機会に恵まれることを願いつつ、筆を置きます。ありがとうございました。
僕がそこへ行く理由 これまでの連載を読む
第1回:1人の少女との出会い
第2回:損をすると思う方を選びなさい
第3回:最も弱い人たちのために働く
第4回:東京→シドニー→バンコク
第5回:違法な子どもたち
第6回:マイゴマの笑顔
第7回:初日からストライキ
第8回:嵐の船上で
第9回:人道援助 大サーカス
第10回:田老町のインディ・ジョーンズ
第11回:なぜ日本でなくアフリカへ?
第12回:ハッピバースデーツーユー
第13回(最終回):砂漠に水をまく