誰からも愛された広島・新井貴浩が今季限りで引退 波乱万丈の野球人生

広島・新井貴浩【写真:荒川祐史】

江藤、金本が去った広島の主軸に成長し本塁打王を獲得

 5日、広島の新井貴浩内野手が今季限りでの引退を表明した。1977年1月30日生まれ、41歳の新井は、現役では中日の岩瀬仁紀、巨人の上原浩治、西武の松井稼頭央、ロッテの福浦和也に次ぐ5番目の年長選手だった。

 新井は広島工高から駒澤大を経て1998年ドラフト6位で広島に入団。この年のドラフトは当たり年で、西武の松坂大輔、巨人の上原浩治、二岡智宏、阪神の藤川球児、中日の福留孝介、岩瀬仁紀などが入団した。広島のドラフト1位も投打で超高校級の評判が高かった敦賀気比の東出輝裕。彼らに比べれば、新井は地味なプロ入りだった。

 広島は、1999年オフに江藤智が巨人にFA移籍、2002年オフに金本知憲が阪神にFA移籍と、主力選手が他球団に流出。こうした戦力の変動の中で、新井は確実に主軸打者へと歩みを進めていった。2005年には43本塁打で、本塁打王を獲得。カープの本塁打王は、山本浩二(4回)、ランス、江藤智(2回)に続いて4人目だ。この年は打率3割をマークし、ベストナインにも選ばれた。

 しかし、2007年にFA権を取得すると、新井も阪神にFA移籍し涙の記者会見で広島と惜別。この年は黒田博樹も海外FA権を行使してドジャースに移籍。広島ファンにはショッキングな年となった。

阪神で打点王、広島復帰後25年ぶりリーグ優勝に貢献しMVP

 阪神では広島で先輩だった金本知憲と主軸を組む。2011年には93打点で打点王を獲得。またこの年は中日から実弟の新井良太が阪神に移籍。新井兄弟は2012、13年とともに100試合以上出場。NPBで兄弟が同じチームでともに100試合以上出場したのは、この1例しかない。

 新井貴浩は2014年には94試合しか出場せず、3本塁打と衰えを見せる。去就が注目されたが、2015年は古巣広島の誘いに応じて復帰した。ニューヨーク・ヤンキースから復帰した黒田博樹とともに「カープ愛」「男気」とファンは大歓声で迎えた。この2人の復帰が、折からの「カープ女子ブーム」にさらに拍車をかけた。

 2015年、新井は打率.275、7本塁打、57打点に終わったが、2016年は打率.300、19本塁打、チーム最多の101打点をマーク。広島を25年ぶりのリーグ優勝に導き、MVPに輝いた。広島のMVP受賞者は山本浩二(2回)、江夏豊、衣笠祥雄、北別府学、佐々岡真司に続いて6人目(その後2017年に丸佳浩も受賞)。

 また、この年の4月26日には史上47人目の2000本安打も達成している。ちなみに新井貴浩の身長は189センチ。2000本安打を打った打者では駒田徳広の192センチに次ぐ長身だ。

 2017年以降は、若手選手の成長もあって出場機会が減っていた。今年は春先から2軍での調整が続いた。しかしマツダスタジアムでも2軍の由宇球場でも、背番号「25」がネクストバッターズサークルに姿を現すと、大歓声が起こった。

 新井貴浩は、広島、阪神、そして再度の広島と、所属したチームで常に結果を残した。また数字だけでなく、気力でチームを引っ張った。引退を惜しむ声は大きいが、チームの3連覇が確実視される中、野球選手として最高の引き際ではあろう。歴史に残る名選手の退場だ。(広尾晃 / Koh Hiroo)

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