アンジュヴィオレ広島、初戦は惜敗も手応えあり!

今年も『プレナスチャレンジリーグプレーオフ順位決定戦』が始まった。

今季の『チャレンジリーグWEST』で1位となったアンジュヴィオレ広島(以下、アンジュ)はその大事な初戦で、普段はサンフレッチェ広島が本拠地とするエディオンスタジアム広島に、EAST2位・FC十文字VENTUSを迎えた。

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しかし、開始早々に先制点を奪いながらも、前半のうちにセットプレーで同点に追いつかれると流れが一変。後半には自陣でのビルドアップからボールを奪われて失点し、1-2の逆転負けを喫した。

それでも試合後、今季からアンジュの指揮を執っている貞清健一監督は、「自分達がやって来たサッカーは間違っていない」、と、今季から取り組んでいるサッカーには一定の手応えを口にしていた。

【プレナスチャレンジリーグ/プレーオフ概要】

プレナスなでしこリーグ1部、2部に続く、日本の女子サッカー3部に相当するチャレンジリーグは、全12チームで構成されている。その12チームを東西6チームずつに分かれて3回戦総当たりの全15試合制のレギュラーリーグを行った後、順位決定戦となるプレーオフが開催される。

そして、EAST/WESTの各1・2位による『プレーオフ順位決定戦1~4位』。このプレーオフの結果、1位は来季からのなでしこリーグ2部に自動昇格となり、2位は2部・9位チームとの入替戦に回ることになる。また、このプレーオフは1回戦総当たりの全3試合制のため、EASTとWESTの首位チームがホーム開催の試合を2試合戦えるアドバンテージとなる。

WESTを制したアンジュヴィオレ広島の組織的なサッカー

2016年シーズンのなでしこリーグ2部で最下位に終わり、チャレンジリーグに自動降格したアンジュ。さらに1年での2部復帰を目指した昨季はWESTで5勝3分7敗と負け越し、4位と低迷。『プレーオフ順位決定戦(5~8位)』で巻き返して総合5位となったものの、昇格をかける順位決定戦1~4位シリーズにすら進めなかった事態は屈辱的だったはずだ。

今季からは昨季ヘッドコーチを務めていた貞清氏が監督に昇格。2013年から2015年にはなでしこジャパンでテクニカルコーチを務めた貞清監督の下、堅守速攻を掲げてスタートした今季のアンジュは、開幕4連勝で首位を快走。

しかし、第5節からは2連敗と3連続引き分けの5戦未勝利。試行錯誤の時期を迎えるも、その直後の第10節から3連勝。波のあるシーズンを送っているようにも見える中、他チームの躓きもあり、2試合を残してWEST首位を確定させた。(最終成績:8勝4分3敗。)

昨季17点だった得点が20に微増したのみに止まりながらWESTを制した要因は、やはり“堅守”だろう。昨季の24失点からリーグ最少の12失点に半減し、完封試合も7試合を記録した。

堅守速攻と言っても、アンジュはただ自陣で引いて守るチームではない。実際、恒益奉実と川野紗季は、前に出てインターセプトを狙う積極的な守備が得意なセンターバックコンビ。その特徴を活かすためにも前線からのプレスは必要不可欠。もちろん、前で奪えないと判断した時には自陣にリトリートして<4-4>の守備ブロックを組むわけだが、「前で奪う」と、「引いて構える」2段階の守備のメリハリが効く完成度の高いチームだ。

学園型総合型地域スポーツクラブ=FC十文字VENTUS

対する十文字は、2017年初頭の『第25回全日本高等学校女子サッカー選手権大会』で初優勝を飾った十文字高等学校を運営する学校法人・十文字学園を母体とした学園型総合型地域スポーツクラブ。高等学校部からは、現在のなでしこジャパンでエース格になっているFW横山久美(AC長野パルセイロレディース)を輩出するなど、近年の女子サッカー界で多様な旋風を巻き起こしている。

そんな十文字は、2014年に学校のサッカー部とは異なるクラブチーム『VENTUS』を設立。VENTUSは昨季からチャレンジリーグにも参戦しており、いきなりのEAST首位でプレーオフに挑んだものの、1分2敗の未勝利で総合4位に終わっていた。

雪辱を期す今季はリーグ最多33得点(15試合)を記録した攻撃力を武器に、EAST2位。再び2部昇格が懸かる戦いに挑んでいる。

先制して理想的に試合を運ぶアンジュだったが…

試合は開始早々、アンジュが中盤でのセカンドボールを拾って上手く繋ぎ、左サイドMFの友近真那がフリーで抜け出す。左45度から得意の左足を一閃した友近のシュートが逆サイドネットに華麗に決まり、アンジュが先制に成功する。

先制してからもアンジュには守りに入る気配はなく、前半はほとんどの時間を相手陣内でプレーするほど押し込んだ。それもボールを保持するというよりは、ボールを奪われても相手のボールホルダーに対してタイトに寄せて素早く奪う守備を軸に押し込んだ。

攻撃は主将の大型FW足立英梨子(上記写真の9番)が最前線でロングボールを収めたり、サイドのスペースに流れて起点となり、攻撃に“深さ”を作る。そして、速攻からは右サイドMF赤嶺美月が、遅攻では左サイドMF友近がFWから左サイドバックにコンバートされた松田遥奈との連携による左右非対称なサイド攻撃で“幅”も作れていた。

これらの武器で決定機も作ったし、CKからのこぼれ球で追加点のチャンスもあった。その大事な追加点こそ奪えなかったものの、試合運び自体は理想的だったはずだった。

しかし、34分。この試合で唯一相手に与えたCKだった。何度も身を投げ出してシュートブロックしながらも、最後はMF源間葉月に押し込まれて1-1の同点に。この失点直後から後手にまわったアンジュは劣勢に陥ってしまった。

初戦の手痛い逆転負けも、やっているサッカーには手応え

1-1の同点で迎えた後半、アンジュは先制点を挙げたMF友近に替えて、MF渡邉和美を投入。高校2年生のFW万力安純が左サイドに回り、<4-4-2>からFW足立の完全な1トップとなる<4-2-3-1>に微修正。

対する十文字は前半以上に両ワイドを使った幅の広い攻撃を展開。縦にも横にもコンパクトだったアンジュのDFラインが横に開かれ、アンジュは「相手のサイドMFのドリブル突破が強力なので、サイドバックに縦のコースを切らせてスピードに乗らせずに、自分が戻って挟み込む」(赤嶺)チーム全体の高い守備意識で対応した。

その赤嶺は55分、攻撃面でも大きなプレーに絡む。逆サイドからの速いクロスに懸命に中央まで走り込んで頭で合わせたシュートは僅かにクロスバーを越えた。

しかし59分、自陣右サイドでのビルドアップを奪われたアンジュは、そのままぺナルティエリア内に持ち込まれ、最後はMF野口彩佳(コーチ兼任)に蹴り込まれて逆転を許す。この場面、DFラインが開いてしまっているため、ボールを奪われた直後にスペースがあった。また、守備意識が高くなり過ぎてしまっていたため、両サイドMFが下がっていたからこそ、自陣低い位置でのビルドアップに参加していたのが裏目に出てしまった格好だった。

逆転以降のアンジュはあまり反撃を繰り出せなかったが、最後は選手交代でCBの川野をボランチに上げ、セットプレーのキッカーを担うボランチの小松未奈を左サイドに回すスクランブル状態で猛攻。しかし、決定機は作るも、1点は遠く、逆転負け。短期決戦に置いて大事な意味を持つ初戦を落とした。

それでも「自分達がやって来たサッカーは間違っていないし、技術や戦術で劣っている部分はない。あとは運を手繰り寄せるぐらいの気持ちや落ち着きが必要」と、貞清監督はメンタル的な課題を挙げつつ、今季から取り組んでいるサッカーには手応えを口にしていたのは本心だろう。

主将のFW足立が「相手の攻撃が分厚いという分析が出ていたので、守備を固め過ぎて攻撃が手薄になってしまった」と言うのも、貞清監督が指摘したメンタル面の課題が出た印象が強い。

必要なのは変化や修正ではなく、“調整”

また、サッカーには大まかに分けて、「自分たちがボールを持っている=攻撃」、「自分達がボールを持っていない=守備」、「守備から攻撃への切り替え」、「攻撃から守備への切り替え」という、4つのフェーズ(場面)があるが、この試合は後者2つの攻守の切り替えに相当する時間が長かった。

前半のアンジュの選手達は身体のキレが良く、相手よりもコンディションの良さを感じさせていた。しかし、後半は守勢に回ったとはいえ、その身体のキレを欠いたように見えたのは、ボールが落ち着かないために心身のスタミナを消耗したのではないか?

とはいえ、今さら何かを変える必要はないだろう。前述したように、守備はメリハリが効いているし、ハードワークの意識は攻撃陣にも浸透している。確かにボールを動かす部分にもっと緩急が必要かもしれないが、何かが不足しているわけでもない。FW足立のポストワークはおそらくリーグ最強で、どの相手にも通用するだろう。

あとは、武器でもあるサイド攻撃からのクロスに対して中に割く人数を増やしたり、クロスのこぼれ球に対するポジショニングやリスク管理、特にサイド攻撃時に逆サイドのサイドバックがどういうポジションをとるのか?というディティールの部分だろう。

何かを変えたり修正したりというよりも、少しのバランスの調整で今持っている武器の活かし方を整える。完成度の高いサッカーができるこのチームなら、それで十分なはずだ。

アンジュヴィオレ広島 今後の日程

大事な初戦を落としたアンジュだが、9月9日の日曜日には再びエディオンスタジアムで、第2節を迎える。

相手はアンジュと同じく初戦を落としたWEST2位・JFAアカデミー福島。先日のヤングなでしこによる『FIFA-U20女子W杯』優勝に大きく貢献したFW遠藤純はその初戦を欠場したが、“違い”を作れる選手なだけに、彼女の出場の有無は大きなポイントになりそうだ。

ちなみにWESTでの今季の対戦成績は、アンジュの2勝1敗。2部昇格のためには勝利しか許されない試合だが、幸か不幸か?もう後はないだけに開き直るだけでメンタル的な課題も解消されそうだ。あとは、それを自信を持って実行するだけだろう。

足立が、「今年に懸ける思いは強い」というアンジュが、大事な勝利を目指して戦う第2節は、“広島サッカーの聖地”に集まれ~!

≪プレナスチャレンジリーグ プレーオフ順位決定戦1位~4位≫ 第1節、9/2 (日)15:00K.O. アンジュ 1-2 十文字@Eスタ

第2節、9/9 (日)15:00K.O. アンジュ VS ac福島@Eスタ

第3節、9/15 (土)11:00K.O. 大和S VS アンジュ@大和

次回予告:アンジュヴィオレ広島MF赤嶺美月選手インタビュー

そして、今後の大事な2試合でポイントになりそうなサイド攻撃を担う選手にお話しを伺って来ました。

次回はアンジュヴィオレ広島の背番号10を背負うMF赤嶺美月選手のインタビューをお届けします。お楽しみに!

筆者名:hirobrown

創設当初からのJリーグファンで、各種媒体に寄稿するサッカーライター。好きなクラブはアーセナル。宇佐美貴史やエジル、杉田亜未など絶滅危惧種となったファンタジスタを愛する。中学・高校時代にサッカー部に所属。中学時はトレセンに選出される。その後は競技者としては離れていたが、サッカー観戦は欠かさない 。趣味の音楽は演奏も好きだが、CD500枚ほど所持するコレクターでもある。

Twitter:@hirobrownmiki

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