『Machami Style』久本雅美著 語られないとここそ知りたい

「みんな!ちょっと聞いて、みんな誤解してると思うの!!」

高校生の頃、友人宅に5人くらいで押し掛けた。緒形直人主演の『北京原人 Who are you?』と水野晴郎監督の『シベリア超特急』を夜通しで観るという最高すぎるパジャマパーティーのはずが、冒頭の叫びとも懇願とも魂の声ともつかぬその言葉で、会の趣旨は大きく変わった。

 ある一人の女子が、一本のVHSをリュックから出しデッキにぶち込んだのだ。詳細は控えるが(別に控えなくてもいいのかもしれないが)某団体の啓発を目的としたビデオで、そこに出演していたのが久本雅美だった。持参した本人、至って大真面目。我ら、とりあえず爆笑。そんな夜があった。

 以来20年、メディアで目にする度に10代の微妙な思い出を呼び起こす久本雅美。なんと今年還暦だそうで。おめでとうございます。……てことは啓発ビデオのマチャミ、アラフォーか!! うーわー。怖い。今の自分の年齢と大差なさすぎて怖い。老けなさすぎて怖い。時の流れに身を任せた結果怖い。月日は百代の過客にして行かふ年もまた旅人なりの意味を一瞬にして理解しちゃった気がして怖い。よう言ったな芭蕉とか書きそうで怖い。そして書いてる怖い。

 閑話休題。久本雅美の還暦を祝して、スタイルブックが発売された。ページをめくると、お洒落をこよなく愛し、そのセンスに定評のある久本らしいファッションシューティングにロングインタビュー、芳村真理にみうらじゅん、上地雄輔との対談に、ワハハ本舗の後輩たちが語るエピソードなどなど、盛りだくさんの内容となっている。

 草間彌生をこよなく愛する久本。陰毛が薄い久本。売れない頃はみうらじゅんと週3で飲み、売れてからは上地雄輔を週5で呼び出していた久本。酒の席で全裸になる男たちを見て、負けじと服を脱ぎ捨て股間を茶碗→お猪口とどんどん小さなもので隠し、最終的には割り箸で隠れるか!?というネタ(?)を披露した久本……。

 エピソードこそ破天荒だが、笑いに対して真摯でクソ真面目なんだということが伝わってくる。

 にしても、だ。気になるのは冒頭の某団体について一切語られていないことだ。いや当然だとは思いますよ。世間では、新興宗教の話題はタブーとされているから。千眼美子になっちゃった清水富美加だって、今やいない人になっちゃってるし。「視聴者」が一気に引くのは火を見るより明らかだし、久本は、そんな視聴者相手に仕事をしているわけだし。

 でも、きっと、大事にしてるものなんじゃないかな。そんな大事にしているものを、ないものとして、自分を構成する要素ではないって顔をして、自分について語るのって辛くないのかなぁ、そんなあらぬ心配をしてしまうのです。その辺りの折り合いを彼女がどうつけてきたのか、気になってしまうわけで、雄弁であればあるほど、語られなかった部分について興味が湧くというのは、なんとも皮肉な話だなぁと思うわけで。あのVHSを印籠の如くリュックから取り出したカヨコ先輩に、今更ながらそこんところ、聞いてみたいなぁと思いつつ本を閉じました。電話掛けてきてくれないかな。選挙時期でいいから、さ!

(トランスワールドジャパン 1800円+税)=アリー・マントワネット

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