金属行人(9月7日付)

 花屋の店先でふと目が留まった。菊の花に添えられたカードに9月9日についての説明書きがある。9日は「重陽の節句」。奇数は古来、縁起のいい陽数。中でも一番大きな「9」が重なるこの日は特別な日だ、と▼もともと中国由来の行事だが、日本でも平安時代ごろから貴族の宮中行事として取り入れられた。当時は中国から伝来したばかりの珍しい菊を眺めつつ宴を催したりしたらしい。今も「菊の節句」とも呼ばれ、風情を楽しむ向きもある▼しかし、今年は「9」の数字が並んでいると、どうしてもマイナスの連想をしてしまうのは小欄だけだろうか。秋の入り口から夏を振り返ると「苦」や「窮」の文字が重なるように浮かんでくる▼6月に発生した大阪北部地震、西日本の広範囲を襲った7月豪雨。この4日には関西を巨大台風が直撃した。そして今度は北海道で震度7の巨大地震である。炎暑にも見舞われた各地で爪痕が癒えぬうちに、また次の災害が起きる連鎖にはやはり不気味さを感じてしまう▼菊には邪気を払う効果があるという。菊を用いて無病息災を願うのも重陽の節句の習わしだ。祈りつつも、あまたの災厄からせめて学べるものを学び、これからの備えに生かすしかない。

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