学校エアコン、寄付頼みの行政 安易な次善策「公の責務放棄」

【時代の正体取材班=松島 佳子】神奈川県茅ケ崎市は、公立小中学校の普通教室へのエアコン設置事業を実施するにあたり、7月から寄付を募っている。市は財源不足などを理由に「事業費の一部に充てたい」と説明するが、そもそも学校教育法は「学校の設置者は学校の経費を負担する」とし、公立学校に掛かる費用は公費で賄うと定めている。専門家は「行政の責務の放棄」「安易な選択」と指摘する。

 同事業は、市立小中学校31校の普通教室へ、リース方式でエアコンを計662台設置するもの。13年間のリース契約で、総額は約16億4580万円。中学校は今月、小学校は来年6月に稼働予定となっている。

 市教育委員会は2019年度から単年度ごとに予算化していく計画だが、「リース料は学校施設の維持管理費に大きな割合を占める」として、市のホームページで寄付を呼び掛けている。

 財政難にあえぐ市は、16年9月から使途を明示して個人・団体から寄付金を集め、事業費の一部に充てる手法を活用。エアコン設置事業での寄付金募集もその一環に当たる。

 市教委によると、17年8月ごろ、財政課から全庁組織に対して、同手法を活用できる18年度事業の照会があり、市教委教育施設課が挙げた今回のエアコン設置事業が採用されたという。

 同課は「市内の生産人口は減り始めており、税収は伸びる可能性がない。事業化したいのであれば『なりふり構わず、お金を集めてこい』というのが財政サイドの考え方」と説明。「毎年、1億円を超えるリース料を支出していくとなると、定期的な収入源が欲しい」とする。

 だが、市教委の考え方に専門家は異を唱える。

 行政問題に詳しい大川隆司弁護士は、学校教育法に触れた上で「茅ケ崎市は学校の設置者に当たり、市立小中学校の学校の経費を負担する義務がある。寄付への依存が許されてしまうのであれば条文を無意味にしてしまう」と指摘。

 また「自治体としてぜいたくなものを作ったり、記念品を製作したりと、プラスアルファの部分で寄付を募るなら分かる」とし、「エアコンは今や公立学校の標準装備であると言える。茅ケ崎市の方針は明らかに安易」と批判する。

 財源不足を理由に寄付金で賄う手法についても、疑問の声が上がる。

 自治体政策学を専門とする関東学院大の牧瀬稔准教授は「『税収に困ったら、税収を増やすのではなく、税外収入(寄付)に頼ればいい』という発想になり、徴税率の改善や事業の精査など、自治体の本来事業をおろそかにする可能性がある」と語る。

 市教委は、18年度から5年間かけて実施予定の「市立小学校の遊具・体育器具の計画的整備事業」についてもクラウドファンディングを活用し、財源の一部に充てる計画を立てている。

 服部信明市長は8月の定例会見で「学校施設は保護者や地域の方にとって『応援したい』という気持ちを持ちやすい。市民の皆さんから幅広く応援していただける施設であれば、寄付を今後も求めていきたい」と語った。

 ただ、当事者は市の決定に違和感を口にする。小学生の子どもがいる保護者の一人は「私たち市民の善意を利用されている気がする」と憤る。中学生の母親も「教育に関する予算の優先順位が低いことが伝わってくる。市全体であらためて税金の使い方を考えてほしい」と訴えている。

 市教委によると、エアコンの設置事業には7日現在、企業1社と個人3人から計17万円の寄付があったという。

茅ケ崎市役所

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