日本人の列島渡来、丸木舟航海で再現 来夏に台湾-与那国島

 国立科学博物館は、日本人の祖先が約3万年前に日本列島に渡ってきた航海の再現を目指すプロジェクトを進めている。当時の技術や知識だけを使い、手こぎの舟で台湾から沖縄・与那国島に渡る実験航海を2019年夏に行う予定だ。

 沖縄には3万年前までに日本人の祖先が定住していたことが知られている。黒潮に乗って南方から漂着したという従来の説は、海流の詳しいメカニズムが解明されると、漂流で琉球列島に着く確率はほぼゼロに近いことが分かってきた。

 台湾-与那国島間は直線距離で110キロだが、巨大海流である黒潮を乗り越えなければならず、祖先たちがどうやって航海を成功させたのかが謎となっていた。

 同博物館の海部陽介人類史研究グループ長らは、大陸と地続きだった台湾から手こぎの舟で渡ったとみて、16年から草を束ねた舟や竹のいかだ、丸木舟を使って国内外で実験航海を続けてきた。

 草を束ねた舟や竹のいかだは耐久性が弱い上に速度が遅く、海流が速い黒潮に行く手を阻まれることが分かった。一方、丸木舟は不安定だが速度が出ることから、当時の人類が琉球列島への進出を成し遂げた際に利用したのではないかと仮説を立てた。

 考古学者の山田昌久・首都大東京教授の主導で石(せき)斧(ふ)を使ってスギの木から長さ約7・5メートル、幅約1メートルの丸木舟を製作し、実験航海に使用する。3万年前に近い条件にするため、地図やコンパスなどの機器を持たずに男女が乗り組み、途中で交代せずに2、3日かけてこぎ続けることにしている。

 「人類史上の偉業を私たちの手で掘り起こして世界に発信したい」。そう意気込む海部さんは「3万年前の祖先たちは偉大な航海者であり挑戦者であった。祖先が乗り越えた困難を私たちが知ることにより、祖先へのイメージが大きく変わるだろう」と話す。航海プロジェクトチームでこぎ手監督の海洋ジャーナリスト内田正洋さんは「日本人は古来、海洋文明をはぐくんできたことを証明したい」と力を込める。

 実験航海や撮影記録などの総費用は5千万円で、うち3千万円についてはインターネットで一般から寄付を募るクラウドファンディングで賄うよう呼び掛けたところ、7日までに目標を達成。14日午後11時の期限までにさらに支援を呼び掛けている。

 クラウドファンディングのサイトは(https://readyfor.jp/projects/koukai2

草の束で作った船を使った実験航海=2016年、与那国島沖(内田正洋さん提供)

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