りんかい線、コミケの経験五輪に生かす 1日10万人、エスカレーターが鍵

東京ビッグサイトの最寄り駅である国際展示場駅。1日あたり10万人が利用する日もある

乗客の上下移動に注意

2020年東京オリンピック・パラリンピックの会場が多く置かれる東京都の湾岸エリア。オリンピックは全42競技会場のうち14会場と中央区晴海に選手村、江東区有明の東京ビッグサイトにはメディアセンターが置かれる。このエリアの輸送で大きな役割を担うのが、東京臨海高速鉄道が運営するりんかい線だ。りんかい線は3日間で50万人近い参加者をビッグサイトに集める「コミックマーケット(以下コミケ)」で大人数が一度に集まるイベントの経験を積んでいる。

8月10~12日に開催されたコミケは主催者発表で約53万人。1日あたり来場者が15万~20万人ということになるが、「全体の6~7割、10万人程度はりんかい線を利用する」と言うのは東京臨海高速鉄道運輸部営業課長の岩成政和氏。ビッグサイトの最寄り駅である国際展示場駅の1日の平均利用者数は約3万人であることから、通常時の3倍以上の利用者となる。この期間は午前5時台を中心に1日10数本の臨時電車を運行。さらには駅員・警備員を通常時の約10倍の40~50人で迎える。駅員は残業を行うほか、本社勤務の職員も投入する。始発から対応のため、駅の宿泊設備以外に近隣ホテルにも泊まる。

コミケの特徴として、まず始発から満員になる。そして午前7~8時に来場のための国際展示場駅の降車ピークを迎える。一編成が満員だと約3000人が乗車する。「国際展示場駅は地下駅。地下駅で利用者が多い時に最も注意しないといけないのは、エスカレーターや階段だ」と岩成氏は語る。深い地下にホームがある駅では、上下の移動に欠かせないエスカレーターや階段がボトルネックになり、転倒の危険がある所となる。特に始発電車が到着すると、「始発ダッシュ」と俗に呼ばれる一刻も早く入場の待機列に並ぼうと走ろうとする参加者がいる。誘導員がエスカレーターをふさいで、走ることを防止するという。

国際展示場駅改札内の中央にある大崎駅向きのエスカレーター。奥にエスカレーター1基と階段も見える

エスカレーターと改札の停止も

帰りは午後1時ごろから混み始め、午後2~3時ごろにかなり混みあう。帰りの混雑で問題になるのはエスカレーター・階段とホームへの人の滞留。国際展示場駅には大崎駅寄り・新木場駅寄りの端にそれぞれエスカレーター1基と階段、中央部に大崎駅向き・新木場駅向きのエスカレーターが3基ずつ、さらに中央にエレベーターが1基ある。

岩成氏は「ホームのエスカレーター近くの部分に人が滞留しがちなので、ホーム上で人の分散をさせる。帰りのエスカレーターは大崎駅寄りが、相互乗り入れするJR埼京線の渋谷駅や新宿駅での乗り換えに便利なので特に混みあう」と説明。ホームで人が多すぎると判断した場合、まず大崎駅寄りのエスカレーターを止める。それでも混雑が収まらない場合は新木場駅寄りのエスカレーターを止める。これでもだめであれば改札を止める。そして電車が到着・乗車でホームの人が少なくなったら、また改札とエスカレーターを動かす。「コミケ参加者が20万人規模の日は7~8回は改札を止める。今年夏のコミケ最終日の8月12日は10回止めた」と岩成氏は振り返った。

上下移動以外の問題点としては帰りに、埼京線への直通列車に乗りたがり、大崎駅止まりの電車に乗りたがらない参加者がいることのほか、交通系ICカードの残高不足で改札で止められる参加者がいること。これらについてはコミケのホームページやカタログを通じて周知活動を実施。大崎駅で湘南新宿ラインへの乗り換えが便利なほか、交通系ICカードについては行きの乗車駅での余裕あるチャージを呼びかけており、一定の効果はあげているという。

国際展示場駅では近日中にホームドアが稼働する予定

さらに国際展示場駅は9月からホームドアを稼働させる。「ホームドアができることで、電車がホームに近づいても安全に乗客が移動できるので、誘導が楽になる」と岩成氏は期待を寄せる。

コミケではほかにも特に夏には熱中症などで体調不良となり、駅の涼しいところで休養させる必要もあるほか、1日1~2回は救急車を呼ぶという。それでも岩成氏は「コミケの参加者はマナーが良く、駅員とトラブルになることはほとんどない」と述べ、概ねうまく運行・営業はできていることを説明した。2019年はビッグサイトが使用制限されることから、ビッグサイト以外に青海の仮設展示場にも会場が広がる。このため国際展示場駅以外に東京テレポート駅でも対策を講じる方針。

コミケ会場であり、東京オリンピック・パラリンピックではメディアセンターとなる東京ビッグサイト

7駅中4駅が会場最寄り駅

東京オリンピック・パラリンピックでも「大型イベントについては他社よりもノウハウはある」と岩成氏は語る。3日間のコミケより長期間であること、夜のイベントや外国人客への対応という課題があるほか、日本など人気チーム・選手が勝ち上がるといった要因により、チケットを持たないで湾岸エリアの会場周辺に多くの人が訪れるといった不安要因もある。今後、大会組織委員会などと協力し予想利用者数を割り出していくが、岩成氏は「1日あたりだとコミケよりは利用者は少ないのでは」と分析している。

一方でJR東日本が管轄する大崎駅を除く7駅中、東京テレポート駅~新木場駅までの4駅が会場の最寄り駅となっていること、約1万5000人収容のバレーボール会場の有明アリーナや同規模の水泳会場のオリンピックアクアティクスセンターといった大規模施設があることが大きな特徴。さらに品川シーサイド駅や東雲駅付近など沿線のタワーマンションの建設が進むことで、通勤客も増加している。「企業にはピーク時の出勤を避けるなど、(東京都、内閣官房、大会組織委員会が発足させた)『2020TDM推進プロジェクト』で推奨している取り組みに協力してほしい」と岩成氏は混雑緩和への企業の取り組みに期待を示している。湾岸エリアへの唯一の大量輸送機関として、大会成功へりんかい線が果たす役割は大きい。

(了)

リスク対策.com:斯波 祐介

© 株式会社新建新聞社