『愛しのアイリーン』 恐怖の後半戦で役者の凄みを感じる

(C)2018「愛しのアイリーン」フィルムパートナーズ(VAP/スターサンズ/朝日新聞社)

 現代の日本映画界には才能溢れる監督が山ほどいますが、本作のメガホンを取った吉田恵輔監督もそのうちの一人と断言できる、素晴らしい才能の持ち主です。森田剛に激烈なサイコパス役を熱演させた『ヒメアノ~ル』、兄弟と姉妹の関係性を見事に描いた『犬猿』と名作をどんどん作り出している吉田監督が、またまたとんでもない映画を作ってくれました。新井英樹による漫画「愛しのアイリーン」の映画化です。

 農家を営む老親と暮らす主人公の岩男はアラフォー独身。女に対しても不慣れで、ろくに恋愛をしたこともない。半ば自暴自棄にフィリピン人の女性との国際結婚を果たします。だがそのことを知らなかった超保守的な母のツルは、嫁のアイリーンに敵意をむき出しにして……。愛を知らない男が、アイリーンの優しさにだんだんと惹かれていくピュアなラブストーリーから一転して、後半戦、登場人物たちが入り乱れたとんでもないバトルが始まると、吉田監督の真骨頂が発揮! それぞれのキャラクターのボルテージも一気に最大まで上がって、観る方の動悸も急上昇。妥協が一切ない壮絶な描写はさすがです。

 それにしても、田舎町に暮らすスーパーバイオレンスな姑を演じる木野花、フィリピン人の女性たちを付け狙うヤクザ役の伊勢谷友介、ヒロイン役のナッツ・シトイ、そして岩男役の安田顕、キャスト全員の怪演は人間の「愛」凄みと狂気を感じさせて、心底ドキドキさせてくれます! ★★★★★(森田真帆)

監督:吉田恵輔

出演:安田顕、ナッツ・シトイ

9月14日(金)から全国公開

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