同世代の女友達が最近、ことあるごとに推してきて気になっていた、My Hair is Bad(以下、マイヘア)。新潟県上越市で結成された3ピースバンドだ。彼らの日本武道館でのライブ2日間の模様を収録した本作、DISC1には3月31日の全編が、そしてDISC2には3月30日にのみ演奏された9曲と、本ツアーのドキュメント映像も収められている。
いや、なんていうかマイヘア、ずるい。ひとことでいうと、子犬の最強さみたいな。オーバーサイズの白いTシャツに細身のパンツ。ツルッときめの細やかな肌、つぶらな瞳。天然自然の愛らしさを備えるヴォーカル・椎木知仁が、不安定な恋愛関係の中で生まれた感情の泡をすくいとり、まっすぐに歌う。ぶつけてくる。
そこに描かれているのは、きっと椎木にとっては等身大の、新しい時代の男性像だ。「俺についてこい!」じゃなく「君の掌で(中略)もっと上手に踊りたい」(『接吻とフレンド』)と歌ってしまう、旧来の男性という“役割”への気負いのなさ。どこまでも情けないことだってさらけ出せるから、子犬は女性たちにとって最強で最愛の存在になる。
気づけばずいぶんいろんなことに安心しきっているアラフォーの日々だけれど、マイヘアのライブを観ていると、未来がわからなくて不安だったり、些細なことに戸惑ったりしていた若き日々のことをありありと思い出す。恋愛の有限性とか、人間関係の無常さ、はかなさとか。あまりにリアルで、目の前の景色がちょっと変わる。だから観てよかったよ、と、女友達に伝えようと思う。
(ユニバーサルミュージック・5000円+税)=玉木美企子