夏の元気な虫

 9月もそろそろ半ばという時節、長崎市の山際で1匹のセミの声を耳にした。今夏、ただでさえセミの数が少なかったとされるが、1匹の独唱は物寂しくて、去りゆく夏を思わせる▲猛暑や大雨のせいか、今年はあまり虫が見られないらしい、と8月末の小欄に書いた。すると昆虫を研究して60年という方から、今年のセミはかなり暑さにやられたようだと、お便りを頂いた▲例年だと盆を過ぎたあたりから、クマゼミの命の尽きた姿が街角で見られるが、今年は8月に入った途端、数多く見掛けたという。県生物学会の元会長、池崎善博さん(79)に教えられた▲クマゼミには記録的暑さが耐え難かったらしい。きっと他の昆虫も-と想像するが、池崎さんから教えられた話がもう一つある。どうやら猛暑を喜ぶ虫もいる、と▲クロマダラソテツシジミというチョウの一種がここ20年ほど、夏になると沖縄以南から九州へと飛来する。今年は時期がやや早まり、8月に入ると急に、どっと増えたという。調べてみたらその名の通り、羽に黒い斑点を持つ小さなチョウで、なるほど、どこかで見た気がする▲長崎市あたりにはまだ数多くいて、11月ごろまで見られるらしい。人間も多くの虫も参らせた夏が去りつつあるが、夏よ終わらないで-と言いたげな元気者もいる。(徹)

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