災害時のトイレ「いちかばちか流しちゃえ!」はダメ!きちんと話し合って計画を立てよう 災害時のトイレ問題 15の最新事情 【中編】

※画像はイメージです

今回は、前回に引き続き災害時のトイレについて考えてみます。
前回の連載はこちら。読んでない方はぜひ読んでください!

■間違っていませんか?災害直後、トイレに水を流すのはNGです!災害時のトイレ問題 15の最新事情 【前編】
http://www.risktaisaku.com/articles/-/2236

ちょっと長くなったので、3回にわたってトイレ問題について考えてみたいと思います。今回は中編です。ではさっそくいってみましょう!

6、災害用トイレ、どれを選べばいいの?

備蓄したほうがよい災害用トイレですが、何を選ぶのかは気になるところです。安さを追求するため、ビニールが薄くなって破れやすいとなれば、困りますよね。

日本トイレ研究所のHPに製品の案内がでていますから、そちらを参考になさってください!
http://www.toilet.or.jp/toilet-guide/

写真を拡大 装着が簡単な一体型や臭い対策を強化した製品など、優先順位の検討が必要

備蓄のしやすさを重視するため、ビニール、吸水剤、薬剤などパーツごと分かれているタイプもあります。その場合は、パーツごとに取り出してからの設置になるので、素早さが落ちるかもしれません。初期の対応や避難所では、迅速に設置できるものを重視したい場合もあるでしょう。

機密性の高いマンションで家族用に使う場合は、迅速性より臭い対策を重視したいかもしれません。何を優先させるかによって選ぶものが異なりますから、家族や職場で話し合いが必要ですね。

お試しで1つ購入して、実際に使って、備えるものを決めるのがよいかと思います。どの製品も、少量セットを販売しています!

防災グッズ販売店の方が、いろいろ製品お試しアソートセットを販売してくれたら、みなさん試しやすいかも!と思います♪

7 、「発災直後、確認がとれるまで災害用トイレを使用」するとしても、どうやって確認をとればいいのでしょうか?

東日本大震災では、地中の排水管の破損に気づかず、溢れたケースも報告されている。さいたま市高層マンション防災ハンドブック P.6より引用 http://www.city.saitama.jp/001/011/015/006/p033831_d/fil/mansionguidebook.pdf

通常の排水トラブルの場合、マンションの場合は、組合がある場合は組合が、管理会社がある場合は管理会社が通常時の確認の取り方を把握しています。各マンションごとに異なりますので、調べて問い合わせてください。

通常時であれば、敷地内の排水トラブルは各市町村の指定工事店や排水設備工事を行った業者が、「接続枡(ます)」から下水道本管は各市町村の上下水道局が修理してくれることになります。いずれも市町村の上下水道を検索すると詳しい問い合わせ先は記載されています。

また、大規模な復興となると、下水道は国土交通省、農業集落排水処理施設は農林水産省、小規模集合排水処理施設は総務省などと管轄が異なります。

さて、どこに連絡すればよいかわかっていたとしても、大災害の際、連絡はとれるのか?いつ確認や修理してもらえるのか、不確定要素があります。

首都直下地震における下水道の防災対策 (東京都下水道局計画調整部 緊急重点雨水対策事業担当課長 ・ 坂巻和夫氏)http://www.sonpo.or.jp/news/publish/safety/dizaster/yobou_jihou/pdf/ybja/ybja-252.pdf(一般社団法人日本損害保険協会刊/そんぽ予防時報 2013 Vol252より)

東京都23区内だけの下水道であっても、下水道管の延長は約1万6000km と長いため、仮に、東日本大震災の場合と同じ2.3%の被害率であっても、下水道応急対策か必要な下水道管の延長は368km に達してしまい、確認・復旧に時間がかかることが想定されています。東日本大震災は津波で流失した家屋も多かった上での2.3%です。想定外も起こり得ます。

いつ確認、復旧できるかわからない問題にどうやって対応するかというと、こちらのマンションの事例が参考になります。

■まずはトイレを備蓄せよ!1人1日8回に備えろ!よこすか海辺ニュータウン 横須賀市ソフィアステイシアの事例
http://www.risktaisaku.com/articles/-/525?page=2

まず、マンション自主防災組織として、震度5弱以上の地震が発生した際には、排水系統の点検が全て完了するまでトイレを含む風呂や台所などの生活排水の使用を全面禁止にした。

これは仮に一時的に排水が利用できたとしても、地震により配管がずれたりしていた場合、下層階の住居に水漏れなどの被害をもたらす恐れがあるからだ。また、同マンションは津波警戒区域内にあるため、災害用トイレは津波リスクが去るまで設置しないとしている。

津波リスクが去った後、マンションで備蓄してある災害用トイレをマンションの庭に設置する。「ソフィアステイシアは8000回~1万回対応の大型トイレを4基のほか、マンホール直結タイプのトイレを10基備蓄してある。これでマンション居住者1000人が1日8回使用しても、10日から2週間は対応できる」と安部氏は胸を張る。

トイレットペーパーは各家庭で備蓄し、災害用トイレを利用するたびに各自持参するものとした。また、夜間はトイレ警備班が巡回警護、部外者のトイレ利用を原則禁止にするなど、徹底した取り組みを施している。

「個人で携帯する携帯用トイレ、家庭で使える簡易用トイレ、そしてマンションで備蓄する災害用トイレと、それぞれ時系列に合わせて用途に応じた備蓄が必要。さらに訓練で実際に組み立ててみるなど、トイレの事業継続をMLCPの最重要課題として取り組んでいる」(安部氏)。

立地条件やマンションの状況によって対策は異なります。マンション住民に特殊技能がある人がいて、備蓄がなくてもすぐ確認修理できるという所もあるかもしれませんし、もっと深刻な事態に対応すべきところもあるかもしれません。

あらかじめ、しっかり話し合っておく事。それが正解のない災害時、臨機応変に対応する指針となると思いますが、いかがでしょうか?

8、備蓄する量は?

確認・復旧に時間がかかるとして、備蓄はどれくらい用意すればよいでしょうか?下水道復旧想定の30日を目安に用意できれば安心ではありますが、お金もかかります。

1週間用意するとして×家族人数×トイレに行く回数・・としても、かなりの数ですよ!

7日分×3人家族だとして×6回(女性が5回〜10回)だとしても=126枚!!!
家族によって共有できるのは誰と誰なのかというリアルな問題も確認しないといけないかもしれません!

職場だと・・準備されてますか?

9、最後の手段の自作は仕組みを知っていたら可能・・だけど・・

 

災害用トイレは、仕組みがわかっていたら自分で作り出すことができます。仕組みは、防水素材と吸水素材を使っているということです。オムツも生理用品も同じ仕組みで作り出せます。ビニール類とオムツやペットシーツの高分子ポリマーなど、吸水材が原料になります。ポリマーがなくても、布や新聞紙などの吸水できる素材があれば自作は可能です。アウトドア流防災術では、仕組みを知っていると作りだすことができることをお伝えしています。

ただ・・・ですね。製品化されているもののほうが、使いやすいです。自作は最後の手段として、知っておいていただきたいですが、トイレで安心できないとストレスがたまり、病気になる方もいますので、初動の災害用トイレだけは購入しておくほうがおすすめとお話ししています。

ちなみに、「レジ袋でおむつを作る方法」は以下でご紹介していますので、ぜひご覧ください。

■「家庭を守れない人に組織は守れない」~生活の言葉で防災を語ろう
http://www.risktaisaku.com/articles/-/528

10、どこに置く?汚物

汚物はどこに保管する?個室の社長室?

さて、災害用トイレの中に閉じ込められた汚物ですが、これをどこに置くか考えておかないと災害時に迷います。

前回も登場したCommunity Crossing Japanの吉高美帆さんが指摘するのは、職場での問題。家族なら、お風呂に置いたケースも少なくないですし、外に置くことも可能な家もあるかもしれません。しかし、職場となると・・どうします?個室の社長室?あらかじめ、考えておく必要ありますね・・。

マンションでは、介護中の方、乳幼児を育てている方は、汚物対策のプロフェッショナルです。最新情報はそこから得られます!つながりづくりと話し合い、大事ですね!

11 、やっぱり無理だ。いちかばちか流しちゃえ!とした場合の責任問題

東日本大震災の無料法律相談事例集(日本弁護士連合会)には、下水道か上水道か明らかではありませんが、水漏れ事例が記録されています。

ケース169 マンションの水漏れで、階下の人に損害が発生した。家具買い替え請求を受けているが、どう対応すればよいか?

ケース188 震災で上階から漏水。マンション自室が水浸しになり、修繕に200万かかる予定。上階の所有者に修繕費を出してもらいたいが回答がない。近々マンション管理組合の集会に諮(はか)る予定

「東日本大震災無料法律相談事例集(日本弁護士連合会)」より引用

熊本地震でご自身も被災された 弁護士法人リーガル・プロ代表で弁護士の鹿瀬島正剛氏(http://www.legal-pro.jp)にお話を伺ったところ、熊本地震でも通常の水漏れの相談はあったとのこと。そして通常の水漏れが、地震だけを原因として漏れていたのに対し、震災後、配水管などの確認前にトイレで水を流すのは、自らの行為が介在するので不法行為による過失が認定される可能性もあるとのことです。 

隣や上の階といった隣人ともめるとその後の生活が苦しくなるので、東日本大震災や熊本地震では訴訟ではなく、震災ADR(※)による調停が多く選択されていました。住民が多く、引越も多い地域であれば、訴訟の可能性も高くなるかもしれません。

また、地震保険に加入していたとしても、階下への水漏れなど、第3者への損害は、保証対象ではありません。損害賠償責任を負うとなると保険でカバーされないのです。以下、とある損害保険会社のホームページのQ&Aには以下のように掲載されていました。

地震保険について

Q,地震で水道管が破裂し階下へ被害を与えてしまいました。自分の地震保険か火災保険で階下の損害を補償してもらえますか?

A,いいえ、地震により他人に与えてしまった損害については、ご自身の火災保険・地震保険いずれでも補償されません。

(注:ただし、一般社団法人日本損害保険協会によれば、この場合でも「階下の人」が地震保険に加入して入れば、「階下の人」の地震保険が有効になる可能性があるとのこと。最後まであきらめずに確認してくださいね。また、上記をもって地震保険に入らなくてもよいとは思わないでください。加入によって生活再建のスピードは格段に速くなる可能性がありますし、意外なメリットもあります。詳しくはまた後日のリスク対策.comにて!!)

さらに、企業であれば、災害復興や企業BCPに詳しい丸の内総合法律事務所の弁護士の中野明安氏が「企業には従業員に対して安全配慮義務があり、災害時にトイレ施設の維持・管理を怠った場合には安全配慮義務違反が問われる可能性がある」ことを指摘されています。

まずはトイレを備蓄せよ! 災害時にトイレの備えがなければ安全配慮義務違反?
 http://www.risktaisaku.com/articles/-/525?page=3

たった一回、「いちかばちか流しちゃえ!」としたことで、負うかもしれない責任はもう想定外ではありません。

※震災ADRとは
ADRとは、判決等の裁判によらない紛争解決方法をいいます。
弁護士会のADRは、弁護士が、中立の立場で「和解のあっせん人」となって、当事者の言い分をよく聞いて、ときには、双方に、有益と思われる「あっせん案」を提示するなどして、当事者間での自主的な解決、すなわち、和解による解決を援助、促進する手続です。
このように、弁護士会ADRは、話し合いによる円満な解決を目指す手続です。
法的紛争に関して、当事者間で話し合いの余地があって、双方が、弁護士という法律の専門家から事情に応じた法的助言を得ることで、互いに歩み寄る可能性があるような事案に有効であるといえます。

熊本弁護士会HPより
http://www.kumaben.or.jp/soudan/jishin/adr/

12、使用済みペーパー、ためるとNG

「東京防災」P60より

ところで、引用した東京防災にはもうひとつ気になることが書いています。「トイレットペーパーは流さずゴミとしてすてます」(P200)とあり、P60の上のイラストでは、トイレ横に使用済みペーパーをためる箱が設置されています。

しかし、ためておくと汚物が乾燥し、空気中に浮遊するので衛生上の問題や感染症の問題がでてきます。

水は流さず1度目から災害用トイレを設置。その中に使用済みペーパーを入れ早めにゴミとして処理。ペーパーは別途ためない。どうか、間違えないようにお願いします。

さて、年内最後の来週は災害時のトイレ問題最終編!
避難所におけるトイレの感染症などの衛生問題や、男女のトイレの在り方などについて考えてみます。次回もお楽しみに♪

(了)

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