「まちをおこす」とは、地域おこし協力隊員に聞いた

2008年に制度化された「地域おこし協力隊」。現在、全国の過疎地域などで様々な人材が活動を続ける。協力隊員の取り組みがきっかけで、地域住民が新たな価値観や生き方を見出し、「まちおこし」につながっている。まちをおこすとはどういうことか。鹿児島県種子島で「移住・定住」という視点から島での新しい暮らしを切り拓く二人の協力隊員に話を聞いた。(武蔵大学松本ゼミ支局=市川仁菜・武蔵大学社会学部メディア社会学科4年)

種子島で開催された「離島甲子園」のポロシャツを着て取材に応じる服部節子さん

情報発信で島内外のパイプ役となるのが南種子町役場企画課地域おこし協力隊の服部節子さん。協力隊以前はテレビ番組などの映像制作をしていたが、自然の中で子育てしたいという理由で大阪府から種子島に移住し2017年5月に協力隊となった。

南種子町地域おこし協力隊は2017年1月に発足され、現在は7名の協力隊が活動している。その中で「情報発信」を担当しているのが服部さんである。

協力隊1年目では映像制作の経験を活かし、町の行事を撮影・編集し、YoutubeやFacebookで発信やアーカイブ活動を行ったという。「1年間行事を撮影しながらどんな町なのか知っていった。これからは人をテーマに地元の人を撮っていきたいですね。そして撮影を通して地元の人と絡んで島にとけ込んでいきたい」と話す。協力隊1年目は町を「知る」ことから始まり、2年目では町を「知ってもらう」活動にシフトする。

今後はこれまでのような映像による情報発信に加え、移住定住イベントで移住体験を語ったり、地元大阪府にある鹿児島県のテナントショップで種子島フェアを開いたりするなど移住者として様々な形で種子島を発信していく。

12月には中種子町に落語家・活動写真弁士を招き「落語・活弁イベント」の開催を予定しているそうだ。「種子島の人は文化的な感覚があって普段から歌ったり踊ったりしている反面、劇場や映画館がない。島の人に色々な文化に親しんでほしいとうことでこのようなイベントを企画しました。その中で子供たちには落語・活弁を体験できるワークショップを開く予定です」と話す服部さん。映像やイベントによる島外に向けた発信だけでなく、外の文化を島内に発信するパイプのような役割となっている。

「島独特のコミュニティーでは信頼を得るのにやはり時間はかかるし、地域の人との絆が住みやすさにつながる」とつぶやいた服部さん。「都会ではお金で物を買うけど、こっちは信頼でいろいろ得られる」と種子島に移住してから、人と人とのつながりを改めて考えるようになったそうだ。まず、地域おこし協力隊は地域での暮らしや人を尊重することから始まるのだ。

最後に服部さんは協力隊について「やっぱり、地域を盛り上げるのは地元の人であって、私たち協力隊はスパイスのような役割。協力隊は謙虚さと挑戦心を忘れず、まず地元の人々をおこすことによって、地元の人から何かをおこすようになってほしいですね」と笑顔で話した。

■種子島第一号の協力隊員

種子島の中央部に位置する中種子町でも人とのつながりを日々感じながら活動する大阪府出身の中種子町役場企画課地域おこし協力隊の松田憲政さん。サーフィン好きが高じて日本屈指のサーフポイントである種子島の協力隊員になった。

中種子町営野球場で取材に応じる松田憲政さん

それは2016年11月のことで、種子島中種子町第一号の協力隊だ。種子島での住まいと仕事を探していたところ、地元の人の紹介をきっかけで協力隊になったという。協力隊第一号ということで、役場は協力隊に対して特に具体的なミッションを課していないそうだ。

「たしかに役場の企画課に預かってもらってはいるが、役場の人を仲間と思って積極的に色々なイベントの運営や準備に携わりますし、よく一緒に美味しいビールを飲みますね」と話す松田さんは役場職員からは「まっちゃん」と親しまれている。

個人で地域をおこす活動よりも役場の職員や地域の人と過ごす日常の中で色々とサポートする役回りだそうだ。

「島に来てから人と自然と関わって生きていくことの面白さを感じている」と島暮らしの魅力を語り、続けて協力隊を「誕生日プレゼント」と例えた。

「協力隊になって期待しなかったところから生まれるものがあるんだなと思いました。誕生日プレゼントをもらったら、それの使い道を考えたり、新しく何かを始めたりすることで自分の視野が広がるじゃないですか」と続け「それと同じように協力隊として知らない地に来て、生活から人との関係を新しく始めていく中で色々気付かされる時があります。人とのつながりが強いからこそ改めて挨拶の大切とか。本来私たちがあるべき姿ではないかと思います」と話す。

魅力を話す一方で離島ならではの課題があるという。子どもたちは豊かな自然と人との関わりの中で様々なことを学べるが、島を出てからUターンで戻ってきた後の雇用という帰る場所づくりは課題という。さらに松田さんは都会に潜在する自然の中で子育てしたい親にもアプローチできるような地域づくりを目指す。

中種子町火縄銃保存会による火縄銃試射で幕を開けた第11回離島甲子園

8月7日から11日に種子島で「第11回全国離島交流中学生野球大会」(通称:「離島甲子園」)開催された。「離島甲子園」は平成20年より全国の離島の中学生が集い野球を通じて島と島の交流を図り、人間形成や地域振興に寄与する大会である。

今年は種子島が開催地となり、松田さんは中種子町で行われた開会式をドローンで撮影した。今後は空撮した素材を中種子町の運動施設活用のために合宿誘致の動画で活用するという。

協力隊と地域は、互いを尊重し合いながら、共に地域づくりをしていく関係である。しかし、協力隊は新参者であるからこその弱みや強みがある。

協力隊・行政・隊員のバランスを保つにはお互い様の関係から始まるだろうと感じた。地域おこし協力隊をきっかけに地域や人に動きが生まれ、変化を起こす。その一つひとつの変化は地域や社会を切り拓いていく。新たな日本の未来をつくるのは協力隊なのかもしれない。

© 株式会社オルタナ