自動運転コンセプト「360c」はもはや“動く部屋”
ボルボは2018年9月12日、新たな自動運転車のコンセプトカー「360c」を公開した。
このコンセプトは自動運転、電動化、コネクテッド、安全性を実現した夢のような移動手段としており、電動化のためエンジンを持たず、さらに操縦のためのハンドルさえも装備しない。そのため車内空間の自由度が高く、従来の車両のように進行方向を向いた2~3列のシートではなく、間にテーブルを挟んだ対面形式のレイアウトになる。
まさに移動する部屋のようなイメージだ。
拭いきれない自動運転の安全面の不安、ボルボの回答とは
完全自動運転の実現にあたって、必ず議論されるのが安全面での懸念だ。どんなに運転支援装備が発達したところで「最終判断まで機械に任せるのは不安」という批判があるほか、「万が一事故が発生した際、誰が責任を負うのか」という指摘もある。
その点ボルボは、言わずと知れた安全を何よりも優先するブランドだ。創立以来、乗員を守る装備や車体の開発にとどまらず、交通事故の現場検証を自ら行い、事故や重症化の原因究明にも取り組んできた。さらに現在、新しいボルボ車での交通事故による死亡者や重傷者をゼロにする「Vision2020」に取り組んでいる。
そんなボルボは、完全自動運転の実現に向けてどのようなビジョンを描いているのだろう。
事故予防の鍵は、世界共通のコミュニケーション手段の整備
この点に関してボルボは、手動運転車両と自動運転車両、さらには歩行者が入り交じる未来の交通環境において、共通のコミュニケーション手段を整備すべきと提唱する。すなわち発生音、色、形状、動作を組み合わせ、車両の意図を他の道路利用者に伝える規格を整備、これによって自動運転が次に何をするかを常に明確にするという仕組みだ。
このコミュニケーション手段はメーカーやブランドの垣根を超えた共通のものとなるべきで、その国際的な共通ルールを整備することが、完全自動運転の実現に近づくプロセスだとしている。
非生産的な移動時間の解消、がテーマ
このコンセプトの公開に当たり、ボルボは「非生産的な移動時間の解消」をテーマとしている。 すなわちこの360cは移動できるオフィス、リビング、エンターテイメントスペース、そして時に寝室としての役割を担い、プライバシーを守り快適性を担保することで「移動しながら何かをする」ことを実現するのだ。
完全自立型の自動運転車なので、言うまでもなく一人で移動する際も、である。これにより移動時間を仕事や趣味、食事や睡眠に活用することができ、移動時間の価値が変わるとしている。
自動運転車両が普及すると、世界はどう変わる?
ボルボはさらに、このような完全自動運転車が普及すれば、都市計画も大幅に変わるとしている。車両がときにオフィスやリビングとしての機能を持つので、人々は長時間の移動に抵抗を示さなくなり、都市から地方への人工拡散にもつながる。最終的には都市で働くこと・住むことの価値も見直されるようになるという。
もちろん車両自体が電気で動き、排気ガスを出さないため、現在都市部で社会問題化している排ガス由来の大気汚染への対策にもなる。もはや新型の自動運転車というだけではなく、非常にスケールの大きな提案をしているのだ。
まさかの飛行機をライバル視、その意図とは!?
さらにボルボは、このような自動運転車は、航空業界にとって大きな脅威になりうるとしている。
例えば米国内では昨年、7億4000万人以上の旅行者が国内線を利用しているが、ニューヨークからワシントンDC、ヒューストンからダラス、ロサンゼルスからサンディエゴといった主要な国内航空路線では、空港へ行き、セキュリティチェックを受け、待ち行列に並ぶといった多くの無駄な時間が発生する。
これは距離によっては自動車で移動する方が短時間で済む場合も少なくないため、プライバシーの確保された快適な自動運転車両で目的地に向かうことは、非常に合理的な移動手段であるとしている。確かに移動中ずっとハンドルを握っているのは大変な距離でも、車内で映画や音楽を楽しみ、ときに熟睡できるのであれば、むしろありがたいと思う人も多いかもしれない。
ボルボはこれにより、将来的な同社の大きな成長の可能性を見据えている。今後この自動運転コンセプトがどのように実現に近づいていくか、注視したいところだ。