過疎進む集落 維持課題 上大野町自治会長 高橋生一さん(79) 

 長崎市上大野町は「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産の一つ、「外海の大野集落」に含まれる。世界遺産登録が決まり、「よかった」と喜ぶ半面、過疎高齢化が進む集落を「今後どう維持していくか」と課題も感じている。
 集落には、明治期にフランス人宣教師ド・ロ神父の指導で建った大野教会堂がある。世界遺産登録後は、同じ構成資産の出津集落と結ぶ無料シャトルタクシーもあり、大野教会を訪れる人が増えた。
 キリスト教の信仰が禁じられていた時代、大野集落の人々は「潜伏キリシタン」になり、信仰を隠すために大野神社の氏子を装った。集落には同神社のほか、キリシタンゆかりの辻神社と門神社があり、これらを巡る公民館講座の案内役を務めることもある。
 佐賀県伊万里市出身。約50年前、建設関係の仕事で長崎へ来て、上大野町にある妻美津江さん(71)の実家に住んだ。当時はわらぶき屋根の家だった。
 「この辺りは昔、かくれキリシタンが多かった」と振り返る。当時を知る人は少なくなったが、かくれ信仰の記憶が美津江さんには残っている。昔は地域で子どもが生まれると洗礼を授け、誰かが亡くなるとお寺のお経の後、別の祭壇に向かって「ウラッショ」と呼ばれる祈りをささげた。斎場で葬儀をするようになったころから、かくれ信仰の習慣もなくなったという。
 自治会は現在39世帯。夫婦で暮らす家庭は減り、高齢者の独居世帯が増えてきた。「地域で老人が老人を見守っているんです」。登録決定から2カ月。世界遺産の中に住んでいるようなものだが、集落の生活に変化はない。「訪れた証しになるような記念品を売り出したら」と仲間内で話したことはあるが、若い世代は集落を出てしまい実現は難しい。
 国道沿いの大野神社は今も地域の守り神。もうすぐ秋の大祭がやってくる。「修理もせんば」と社殿を見上げた。

「集落をどう維持していくかが課題」と話す高橋さん=長崎市、大野神社

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