遠隔医療へ聴診器開発 情報通信技術で地方の医師不足に対応

試作品の聴診器を手にする「AMI」の小川晋平社長(左)と山川俊貴取締役=水俣市

 心音や呼吸音など患者の体内の様子を診るため、医療現場で欠かせないのが聴診器だ。同社は情報通信技術を活用した次世代型の聴診器開発に挑む医療系ベンチャー。小川晋平社長(35)は心臓病を専門とする循環器内科医で、過疎地の医師不足などから今後拡大するとみられる遠隔医療市場への参入を見据えている。

 開発のきっかけは、突然死のリスクがある大動脈弁狭窄[きょうさく]症という心臓の病気。「進行するまで症状がなく、早期発見できるかが重要。病気の兆候を自動的にとらえられるような聴診器があれば救える命が増える」との思いだった。

 熊本市出身。当初は「普通の医者」として熊本大病院などに勤務していたが、新たな聴診器の開発や事業化を目指そうと、京都大大学院で起業家精神や医療経済を勉強。2015年、京都市内に現在の会社を設立した。

 貯金をつぎ込みながら単独で開発を続けていたさなか、熊本地震が発生。医療ボランティアとして被災地入りした。現地では夜間、保健師がいても医師不在で診療できない避難所も多く、インターネットで医師とつながる遠隔医療の必要性を実感したという。

 開発を進めている聴診器は手のひらサイズの大きさ。遠隔地にいる患者が自ら当てるか、現地の保健師らに当ててもらう状況を想定しており、独自に開発したテレビ電話機能を用いて聴き取った心音や、それを可視化したデータが医師のスマートフォンやパソコンにリアルタイムで送られる仕組みだ。

 熊本大工学部の山川俊貴助教(37)=医用工学=を取締役最高技術責任者(CTO)に迎え入れ、既に技術的な課題はクリア。同CTOは「遠隔医療の技術で深刻化する地方の医師不足の解決に少しでも貢献したい」と意気込む。

 現在、社員は8人。会社としての売り上げはゼロに等しいが、19年度中に自治体や医療機関向けに実用化できる見通しで、19年度は5千万円の売り上げを目指している。

 今のところ新興企業を支援する県や国の補助金などを活用して開発費や人件費などに充当。肥後、鹿児島両銀行が中心になって設立したKFG地域企業応援ファンドや大手バイオベンチャーのユーグレナ(東京)が組成したファンドを通じて計5千万円の投資を受けたばかりで、肥後銀は「社会に必要とされているテーマ。しっかり実現してくれるだろう」と期待する。

 熊本地震を契機に16年10月、帰熊を決断。水俣市のインキュベーション施設に本社を移転した。

 社名のAMIは「医療革新を迅速に進めたい」といった意味を持つ英文の頭文字で、小川社長は「聴診器をつくることがゴールではない」と強調。「革新に向け、会社を着実に成長させたい」と意気込む。(宮崎達也)

(2018年9月14日付 熊本日日新聞朝刊掲載)

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