【特集】「プレバト」「俳句甲子園」ブームの秘密

俳人 夏井いつきさん(左)、今夏の「俳句甲子園」(右)

 自ら俳句をつくる機会はなくても、TBS系テレビ番組「プレバト!!」俳句コーナーや高校生の「俳句甲子園」を見て、ブームだと実感している。十七音のうち一音違いで印象が全く変わる競技としての“ライブ感”、言葉を追求する創造性に多くの人が魅せられるようだ。(まとめ 共同通信=柴田友明) 

 「生み出す瞬間」→感動 

 「プレバト!!」と言えば、芸能人の句の出来栄えを番組で辛口批評する俳人夏井いつきさんが有名だ。「普段はクールなタレントさんや俳優さんが、助詞一つにさんざん頭を絞っている姿は、見る人を引きつける。物を生み出す瞬間が感動を呼ぶのだと思う」「その知識を『誰かと共有したくなる』傾向が俳句の愛好者にはあると言い、SNSとの相性の良さを指摘する。『若い人々の反応も、年々良くなっていると感じる。今後も新しい方法を模索して、幅広く楽しめる芸術にしたい』」(7月24日共同通信配信記事)。

 担当記者の夏井さんへのインタビュー記事に目を通して、なるほどと思った。その夏井さんが創設にかかわったのが「俳句甲子園」だ。正岡子規ら多くの俳人を輩出した松山市で20年前の1998年から開催されている。全国の高校生が、俳句の出来栄えや鑑賞力を競う大会としてかなり有名になった。

 

 3連覇目指す開成破る 

 今夏の第21回「俳句甲子園」の決勝は8月19日にあった。3連覇を狙う有名進学校の開成高校を破り、山口県立徳山高校が初優勝を果たした。さながら野球の甲子園決勝の大阪桐蔭と秋田県立金足農業の激突シーンをも想起させる。 

 開成VS徳山との決勝では「清」を題に両校が5句ずつを示した。

 

 「清流を示す歩荷(ぼっか)の腕太し」

 

 山登りで清流を案内する力強い「歩荷」の様子を詠んだ徳山高校に、開成高校が「説明的過ぎる」と注文すると、「実感に基づいた句だ」と徳山側の情景の説明を交えて反論した。 

 続いて開成側の句。

 

 「峰雲や胸ポケットに清め塩」

 

 生命力を感じさせる「峰雲」がこの句に最適かどうかで議論が巻き起こった。「ゴールデンウィーク清流線の旅」「清らかに星積もりゆくケルンかな」などの句が互いに示され、討論された結果、徳山側が3―2で接戦を制した。

 

俳人 神野紗希さん(左) 著書「日めくり 子規・漱石 俳句でめぐる365日」(愛媛新聞社)

 若手俳人の言葉 

 今夏は20都府県から地方大会を勝ち抜いた26チームを含め計32チームが2日間対戦。優勝した徳山主将は「開成と同じ舞台で戦えて良かった。全力を尽くせた」。準優勝の開成主将は「先輩たちの思いをつなぎたかった。楽しかったと試合後に対戦相手に言葉をかけられ報われた」と語った。 

 「俳句甲子園」出身で今注目されている若手俳人が神野紗希さんだ。9月に日本記者クラブで神野さんの講演・記者会見があった。テーマは「子規・漱石とその門人たちの俳句を詠む」。最近の俳句ブームの背景も分かるのではないか。話を聞きに行った。

 

 「うつむいて谷見る熊や雪の岩」 

 「うつむいて膝に抱きつく寒哉」

 

 冒頭、神野さんが聴衆に「どちらが正岡子規、夏目漱石の句でしょうか」と尋ね、二者択一で挙手を求められた。病床で句を詠んだ子規のことを考えて、筆者は後者が子規であると手を挙げたが、正解は前者が子規、後者が漱石だった。

 

 司馬遼太郎の歴史小説「坂の上の雲」で作家として有名になる前の夏目漱石と正岡子規が学生時代から親友であることは知っていたが、2人の句を対比して語る神野さんの視点は筆者にとって新鮮だった。

 

正岡子規(左)と夏目漱石(右)

 神野さんは、子規と漱石の生誕150年を記念して愛媛新聞で2017年に連載した企画「日めくり 子規・漱石 俳句でめぐる365日」を最近出版している。「紙の上の文豪ではなく、生きて語り合っている2人の若者を追いかけたかった」。

 

 「柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺」

 

 子規の句としてあまりにも有名だが、この句ができる少し前に漱石が「鐘つけば銀杏ちるなり建長寺」と詠んでいる。神野さんによると、「漱石の句を知っていた子規がもっと面白く詠もうと、漱石の句の変奏を試みたのでは」「こがいな句はどうぞなもし? 漱石、名アシスト! 子規の代表作は漱石との共同から生まれた」との解説は興味深かった。

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