「代名詞を取り戻したサガン鳥栖。上昇気流に乗った”地方クラブの雄”から目を離すな」

残留争いを強いられているサガン鳥栖が、再び降格圏を脱した。

9月15日に行われた26節のサンフレッチェ広島とのホームゲーム。首位を走る広島相手に主導権を握ると、76分に高橋祐治がFKから頭で決勝弾を叩き込む。首位チームに土をつける勝利で、22節以来となる15位へ浮上。J1残留に向け、大きな白星を手にした。

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クラブの象徴的存在である豊田陽平の復帰、そしてフェルナンド・トーレス&金崎夢生の獲得でメディアを賑わせたチームは、迎えた終盤戦でハードワークと堅守を取り戻した。

今回の当コラムでは、戦い方が整理されてきた鳥栖を取り上げ、その変化に迫りたい。

■新加入のビッグネームを戦術の軸に

戦術家として知られるマッシモ・フィッカデンティ監督は、複数のシステムを併用し、試合中に布陣変更を頻繁に行う。今季も基本形の4-3-1-2に加え、オーソドックスな4-4-2、クリスマスツリーの4-3-2-1、アンカーを置いた3-5-2、3-4-2-1などを用いてきた。

F・トーレスと金崎が加わった後半戦は、この2トップを戦術の軸に据え、4-3-1-2と4-4-2を採用。

ここでは4-4-2をメインとしたが、4-3-1-2で試合をスタートさせつつ、途中で4-4-2へシフトチェンジする試合も多く見られる。福田晃斗や小野裕二といった複数のポジションを遜色なくこなせるプレーヤーの存在が大きいと言えるだろう。

夏の大型補強がプラスに作用

今季の鳥栖は、開幕から2勝2分1敗と上々のスタートを切った。歯車が狂い始めたのは、6節のセレッソ大阪戦から。12節の北海道コンサドーレ札幌戦まで7連敗を喫し、降格圏をさまようこととなった。

痛手だったのは、FW陣に怪我が相次いだことだ。エースのビクトル・イバルボは満足にピッチに立てず、チョ・ドンゴン、池田圭も戦線離脱を余儀なくされた。特に前線で起点となれるイバルボ、チョ・ドンゴンの不在はダメージが大きく、キレのあるドリブルを見せていた小野の奮闘が救いとなっていた。

深刻な得点力不足(中断期間前の15試合で14ゴール)を解消すべく、フロントが動く。かつてのエース・豊田が韓国の蔚山現代より帰還すれば、7月10日にスペインのアトレティコ・マドリーから世界的名手のF・トーレスを獲得し、その2週間後には鹿島アントラーズから金崎が電撃加入。

更に、チョン・スンヒョンが鹿島へ去ったCBはレバノン代表のジョアン・オマリで穴埋めを図り、8月16日には徳島ヴォルティスからマルチロールの島屋八徳を迎え入れた。

前述の通り前半戦で苦しんだのは、前線で起点となれるFWの不在が要因だった。F・トーレスと金崎が加わったことでタメができ、「奪ったボールを2トップに預ける」という狙いも統一されるようになったのである。

華麗なターンやパスでスタジアムを沸かせるF・トーレスだが、加入当初は意図したタイミングでボールをもらえず、フラストレーションを溜める場面も散見された。

しかし時間とともにコンビネーションが改善され、サイドからのクロスに頭で合わせる形が攻撃パターンとして確立されつつある。

また福田との連携が冴え、ここまで公式戦で奪った2ゴールをどちらも背番号6のアシストから生まれた。

相棒の金崎は、攻守にアグレッシブなスタイルがチームカラーに合致し、すぐに適応した。サイドに流れてチャンスメイクする姿は鹿島時代から変わらず、前線からの精力的なプレッシングでも存在感を発揮。

F・トーレスとの関係性も良好で、今後はゴール量産を期待できそうだ。

理想形は金星をあげた……

「奪ったボールを2トップに預ける」という狙いがはっきりと定まったことにより、鳥栖の代名詞であるハードワークも復活を遂げた。

前半戦はゴールが遠ざかったこともあり、選手たちの頑張りが水の泡となっていたが、一本の筋が通ったチームはハードワークへのモチベーションも向上。中断期間明けの12試合で6失点、7度のクリーンシートを達成するなど堅守を取り戻した。

C大阪、川崎フロンターレ、FC東京、広島といった上位陣から勝点を奪えるようになったチームは、明らかに上昇気流に乗っている。F・トーレスのフィットはもちろん、安定したディフェンスを見せるオマリがレギュラーに定着し、今季開幕前に加入した安在和樹が新天地でも輝きを放ちつつあるなど、朗報も多い。

残り8試合となったリーグ戦で残留を掴み取るには、この良い流れを続けていくことが重要となるだろう。ハードワークを徹底して粘り強く90分を戦い抜き、勝点をモノにする戦い方が求められる。

理想は、首位相手に金星を挙げた26節の広島戦だ。試合を通して集中力を切らさず相手の攻撃に対応し、セットプレーから先制点をゲットした後は、したたかに時計の針を進めて逃げ切った。カウンター一辺倒になるのではなく、ポゼッションでリズムを掴んだ時間帯もあり、試合運びとしては満点の出来だった。

仮にJ2降格となれば、財政的なダメージや主力の流出はもちろん、F・トーレス獲得によって高まったブランドイメージに傷がついてしまうだろう。

降格は絶対に許されない中で、ノルマをクリアできるか。ここにきて代名詞を取り戻した“地方クラブの雄”から目が離せない。

2018/09/16 written by ロッシ

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