熊本地震で被災したゲストハウス 新たな挑戦"泊まれない宿" 自然体で楽しむ場所に

1日に運営を再開し、宿泊客と談笑する「阿蘇び心」オーナーの吉澤寿康さん=2日、阿蘇市

 雄大な外輪山を望む熊本県阿蘇市上西黒川地区の一画。熊本地震で被災したゲストハウス「阿蘇び心」の跡地にはウッドデッキが広がり、棚には新鮮な野菜が並んでいた。1日に新たな形態で運営を再開し、オーナーの吉澤寿康さん(44)は笑顔で客を出迎える。

 吉澤さんは広島県出身。会社を辞めオートバイで旅をした時に阿蘇の自然に魅せられ、28歳の時に移住。ライダーハウス経営や地域振興などに携わり、2012年に「阿蘇び心」を始めた。

 宿泊客は4年で1万人を超えたが、地震で建物が被災し解体。吉澤さんはスタッフの雇用を守るため、地震後に「阿蘇び心」の支店を新設する一方、阿蘇での再開を模索した。

 しかし、近くに宿泊施設がある中で、新たな宿の必要性に疑問を持つようになった。思い出したのは、町並みや住民の人柄に「この雰囲気が落ち着く」と言う宿泊客の声。「一番大切なのはこの地域。宿泊客と住民が自然体で楽しめる場所をつくりたい」

 たどり着いたのは地区全体を宿とする新たな形態。跡地に宿を造らず、客は空室を提供してくれる同じ地区の「阿蘇の司ビラパークホテル」とゲストハウス「ASONOMORI」に素泊まりする。

 跡地にはトレーラーハウスを改装した談話室や食事スペースのほか、納屋を活用した映画鑑賞室を設けた。近くの空き地には図書コーナー、倉庫の屋上には田園を一望する展望テラスがある。全国から有志が駆けつけ、手作業で準備を進めた。

 105世帯が暮らす地区の住民も吉澤さんらと連携し、運営を支える。販売コーナーに野菜を持ち込む人、農業体験の希望者を募る人。「子どもとお年寄りの触れ合いの場や、生きがいづくりになる」と宮本孝誠区長(69)。地区全体を宿に見立てたことで、「阿蘇び心」の楽しみ方は多岐にわたる。

 運営再開初日の夜。談話室に宿泊客の笑い声が響く中、吉澤さんは本震の午前1時25分で止まったままだった時計の時刻を現在時刻に合わせ、喜びをかみしめた。「浸透に時間がかかるだろうが、地域の人と一緒に育てることから始まる。地元を離れた若者も帰りたいと思うような元気な場所になるよう、地域全体を盛り上げていきたい」(中尾有希)

(2018年9月16日付 熊本日日新聞朝刊掲載)

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