「心理学ではなく新興宗教」精神科医が、人気カウンセラー・心屋仁之助氏の「娘叩く母」肯定を斬る

 昨年3月まで、日本テレビ系で放送されていたバラエティ番組『解決!ナイナイアンサー』。結婚、家族、健康、お金、仕事など、さまざまな悩みを持った芸能人が登場し、“クセ者相談員”たちがアドバイスをしていくという内容だが、その相談員の中でひときわ異彩を放っていたのが、心理カウンセラーの心屋仁之助氏だ。同番組で、「性格リフォームの匠」と呼ばれていた心屋氏は、ほかの相談員とは一線を画すアドバイスをすることで注目を集める存在だった。

 例えば、「結婚したいと思わない私は変なのか?」と悩むフリーアナウンサー・中田有紀に対し、「家族との距離が遠い女性は結婚したがらない傾向」「父親にもっとかまってほしかったと思っている」と指摘。中田に「お父さん大好き」という言葉を口にさせ、これまで押し殺してきた感情を認識するよう促すなど、一見突飛にも見えるカウンセリングは、視聴者の目に印象的に映ったのだろう。

 しかし、心屋氏はその後、テレビから姿を消し、すっかり「あの人はいま」となっているが、先日、公式ブログでのある発言が“炎上”する事態に。娘を叩いてしまい自己嫌悪に陥っていると悩む一般女性に対し、「キミの娘さん 叩かれるために生まれてきたのよ」とアドバイスをし、「虐待を助長する」と批判の渦が巻き起こったのだ。

 問題のブログを詳しく見ていくと、相談者の女性は「色々あって、娘とケンカして、ほっぺたに往復ビンタを3回もしてしまった…娘に、このままじゃママに包丁で刺される!とまで、言われました」と告白。「とりあえず、たたいたらあかんって言ってるママが叩いたらあかんやんなー、とアハッと笑いました。娘は私を許してくれました」というが、「ぢんさん、こわいです。わたし、こわいです」と本音を吐露している。

 それに対し心屋氏は、「キミの娘さん叩かれるために生まれてきたのよ だから、叩きたくもないキミを動かしたのよ」と回答。なんでも相談者の女性は、「叩く『役目』を負わされた」といい、娘が叩かれるために生まれてきた理由については、「それでも親を許すため それでも親が自分自信を許すためのトレーニングしにきたのよ。前世でできなかったからまたチャレンジしにきた」と説明している。

 この「叩かれるために生まれてきた」という心屋流のアドバイスには、かつてテレビに出ていた頃と同様の“突飛さ”を感じさせ、ネット上では「あり得ない」といった声が広がっているが、精神科医の目にはどのように映るのだろうか。開口一番「むちゃくちゃですね」と声を上げたのは、『被害者のふりをせずにはいられない人』(青春出版社)や『高学歴モンスター~一流大学卒の迷惑な人たち~』(小学館)などの著者である精神科医・片田珠美氏。かつて『ナイナイアンサー』で心屋氏と共演経験もあるという片田氏が、心屋氏のアドバイスを一刀両断してくれた。

 今回、問題になったブログを読んで、片田氏は特段「驚かなかった」という。心屋氏は2013年4月のブログで、「臨床心理士○○・・認定カウンセラーとか △△協会認定とか・・そういう類のものいっさい持ってない」と書いているが、片田氏は「心理学の知識があるわけでも、臨床経験を積んだわけでもない人で、以前から『胡散臭い』と感じていた」そうだ。

「心屋氏はテレビでウケていた人で、『スタッフやスタジオ観覧者、視聴者が“芸能人に言ってほしい”と思っていることを敏感に察知し、それを言える人』だと感じていました。“他者の欲望に敏感な人”とも言えますね。13年に共演した頃から、『ああ、こういう人がテレビで人気になるんだ』とは思っていたのですが、今回炎上騒動を起こし、ついに馬脚を露わしましたね」

 心屋氏のアドバイスで最も批判を浴びているのが、やはり「叩かれるために生まれてきた」という部分だ。これもまた、「このアドバイスが適切か否かではなく、『相談者が言ってほしいこと』『相談者が安心して喜ぶだろうこと』を敏感に察知して、答えているのでは」と考察をめぐらす。

「ある意味、ポピュリズムなんですよ。大衆の思いに迎合し、それに沿う政治姿勢のことですが、心屋氏はこのポピュリズムをやっているわけです。しかし、それには弊害があります。相談者の女性が、『娘は叩かれるために生まれてきた』と信じこみ、身体的虐待を続けていたら、娘さんを死に至らしめてしまう可能性もありますから。心屋氏には、自分の発言がどのような影響を及ぼすのかという想像力も欠如しています。これは単に『きちんと心理学や精神医学を勉強していないから』でしょう」

 ただ、悩んでいる人は「肯定してほしい」という気持ちを抱いているものだと語る片田氏。頭ごなしに否定すると、相談者の心を傷つけ、最悪、自殺を考える事態を招きかねないだけに、精神科医も「基本は相談者を肯定する」という。そう考えると、相談者を肯定する心屋氏の姿勢も、あながち間違っているわけではないと解釈できるが、「どの部分を肯定するかを見誤っている」と片田氏は厳しく指摘する。

「肯定の仕方はいろいろあると思うんですが、まず『娘を叩いてしまうことに罪悪感を抱いている』という気持ちを認めてあげます。そこから『なぜ叩いてしまうのか?』を考えながら、相談者の人生を振り返っていくのが適切でしょう。心屋氏のように、叩くこと自体を肯定するのは違うと思います。彼には、人をびっくりさせるようなことを言って、ネット上の注目を集めたいという心理が働いているようにも感じますね」

 心屋氏の回答には、ほかにも物議を醸している部分がある。それは「前世」という言葉を用いている点だ。心理カウンセラーの発言としては違和感を覚えさせるが、片田氏は「きちんと勉強していないので、『叩かれるために生まれてきた理由』を説明できず、『前世』という言葉を使って自己正当化したのでは」と感じたそうだ。

「なぜ子どもを叩いてしまうのかは、心理学的にちゃんと説明できるんです。相談者の女性は『幼い頃、母から暴力を受けました』とつづっており、“虐待の連鎖”が起こっていることがわかりますが、これは『攻撃者との同一視』『置き換え』という2つのメカニズムによって説明できます。『攻撃者との同一視』とは、虐待された人が心の傷を乗り越えるために、虐待の加害者と自分を同一視し、自分がされてきたのと同じようなことを、もっと弱い者に対して行うことです。親から虐待を受けた子どもが、『自分は絶対にこんなことはしない』と誓っていても、大人になった時に、わが子を虐待するのはよくあることなんです。また『置き換え』とは、怒りの感情を、その原因となった人にぶつけられず、別のところにぶつけることを指します。平たく言えば、『八つ当たり』です。例えば、夫からDVを受けている女性は、加害者である夫に怒りを覚えても、怖くて怒りをぶつけられず、もっと弱い者、つまり子どもにぶつけてしまう……というわけです」

 この「攻撃者との同一視」「置き換え」の理論は、「心理学、精神分析では基本のキ。例えば、心理学を学ぶ修士課程の大学院生であれば、誰でも知っているレベル」とのこと。

「『前世』みたいな言葉を持ち出してきたら、もはや宗教です。心屋氏がやっていることは、カウンセリングではなく、新興宗教に近い。『心屋仁之助』はビジネスネームだそうですが、あたかも心理の専門家のような名前をつけているのも、違和感を覚えますし、ただ、口がうまいだけの人と感じてしまいます。『心理カウンセラー』と名乗るのなら、一旦、現在行っているカウンセリングやセミナーを中止して、大学院などに入り、しっかり勉強してほしいと思いますね」

 児童相談所職員やスクールカウンセラーの職に就いた臨床心理士が、日々、児童虐待と真剣に向き合っている中、「そういった経験を一切積まずに、『キミの娘さん 叩かれるために生まれてきた』と発言するなんて、かなり胡散臭い、いい加減な人としか思えない」と本音を吐露した片田氏。心屋氏に限ったことではないが、悩みを相談する側も、「果たしてこの人は、自分にとって、信頼のおける人なのか」をしっかり見極めてからというのを、徹底した方が良さそうだ。

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