被災の真備に「歌声喫茶」復活

 西日本豪雨で甚大な被害を受けた倉敷市真備町岡田地区で16日、住民らによる「歌声喫茶」が約3カ月ぶりに復活した。懐かしい歌謡曲やフォークソングをみんなで歌う月1回の交流イベントは被災により中断を余儀なくされたが、「頑張ろう、こんな時こそ」—の思いで再開。避難生活で離れ離れになった住民ら約140人が集まり、歌を通して地域の絆を確かめ合った。

 <いつの日にか帰らん 山はあおき故郷> 歌声喫茶会場の真備公民館岡田分館に唱歌「故郷」が響いた。地区外で暮らしている被災者も多く、歌詞をかみしめるように歌い、涙ぐむ人もいた。

 歌声喫茶は2015年6月、岡田シニア倶楽部が実行委員会を立ち上げてスタート。毎月80人以上集まっていたが、西日本豪雨で開催できなくなった。

 実行委員長の前田光男さん(74)も自宅が水没し、地区外の「みなし仮設住宅」で暮らしている。そんな中、再開へと動きだしたのは被災から1カ月余りたった8月中旬。避難所や買い物に出掛けた先で、地域の仲間と会う度に「また、歌声喫茶やろうや」「いつから始める?」といった声を聞いたからだ。

 真備町地区全体ではエリアの3割に当たる約1200ヘクタールが浸水し、岡田小学校区は約1500世帯のうち、3分の2が被害に遭ったという。被災前も会場にしていた岡田分館は、1階天井付近まで水没した。同分館に置いていた歌集や伴奏用のピアノも水に漬かった。再開に向けて、傷んだままの分館の床にはブルーシートを敷いて応急処置。歌集は住民が持っていたものをコピーしてそろえ、楽器は演奏者が電子ピアノやサックスなどを持ち込んだ。

 「203センチ」—。分館の壁には押し寄せた水の高さがテープとともに記されている。水害の傷跡が生々しく残る会場に駆け付けた住民たちは、手を取って再会を喜んだり、近況を報告し合ったりした。

 西日本豪雨の犠牲者(真備町地区51人)に黙とうをささげた後、催しは始まった。「上を向いて歩こう」「花は咲く」「三百六十五歩のマーチ」…。復興に向け、前へ進む気持ちを鼓舞するような歌が続いた。

 「40年以上ここで暮らしてきた。今は周りに知り合いはいない。さびしい」 地区外のみなし仮設住宅に身を寄せている浜崎勝子さん(74)は心境を打ち明けた。自宅1階が水没し、夫とともに2階で二晩を明かした体験から、このまま別のまちに住むことを考えたこともある。だが、年明けには自宅を改修し、戻ってくるつもりだという。地域の仲間たちと語り合い、一緒に歌った浜崎さんは「みんなの顔をみるとやっぱり真備がいい」と目頭を押さえた。

 約2時間、21曲を楽しんだ触れ合いのひとときはすぎ、最後は友情や明日への希望をテーマにした「今日の日はさようなら」で締めくくった。

 歌声喫茶の定期開催の見通しは立ってないものの、次回は12月に開くことを報告した実行委員長の前田さんは、故郷への思いを語った。

 「みんなが帰ってきて、元通りになることを願っている。今日をその第一歩にしたい」

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