郷土史から学ぶ洪水対策 川崎「アミガサ事件」講演会

 多摩川の氾濫から自分たちの住む地域を守る堤防建設を求め、現在の川崎市中原区周辺の住民らが1914(大正3)年に県庁に陳情に押し掛けた「アミガサ事件」から104年に当たる16日、同区のJAセレサ川崎御幸支店で、事件を振り返る記念講演会が開かれた。地元でもあまり知られていない歴史に約40人が耳を傾けた。

 度重なる洪水に悩まされていた住民数百人が編みがさをかぶって陳情したことが事件名の由来。同事件の約2年後、現在のガス橋近くに約2・2キロにわたる堤防が完成し、建設に尽力した当時の有吉忠一知事の名前が付けられた。

 地元出身で国土交通省国土技術政策総合研究所主任指導官の和田一範さんが「アミガサ事件と有吉堤、多摩川直轄改修への道」と題し、当時の文書や新聞記事、地図など最新の研究成果を基に解説した。

 和田さんは、有吉知事だけではなく、多摩川を挟み堤防を巡って確執のあった当時の東京府や府議会、「有吉堤」の建設に対して中止命令を出した内務省の思惑も丹念にたどり、「数々の誤算はあったものの、結果的に有吉知事のシナリオに沿う形で、多摩川改修の内務省直轄事業化が実現した」と語った。

 和田さんは「アミガサ事件、有吉堤、国の直轄改修という一連の流れから、自助や共助、公助の在り方など多くの教訓を得ることができる。地域の防災力を高めた事例として現在も非常に参考になる」と話した。

アミガサ事件や有吉堤など多摩川の河川改修の歴史を語る和田さん =川崎市中原区

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