五輪で通勤や物流の混雑対策、企業は必須 期間中道路交通量15%削減目指す

豊洲から眺めた建設中の選手村。その手前には環状2号線の豊洲大橋も見える

選手は車、観客は鉄道

2020年東京オリンピック・パラリンピックは、選手・関係者の移動で主に選手村から競技会場への移動でバスが調達台数で約2000台、乗用車は約4000台が必要と見込まれている。選手や関係者の移動は自動車、観客は主に鉄道。東京都、内閣官房、大会組織委員会では混雑緩和に向けた取り組みを「2020TDM推進プロジェクト」として民間にも協力を呼びかける。また道路や鉄道の混雑具合の予想として「混雑マップ」の作成も行う。

大会組織委員会では2017年6月に最初の輸送運営計画を策定した。選手・関係者の移動ルートについては主に高速道路だが、東京都オリンピック・パラリンピック準備局大会施設部輸送課長の松本祐一氏は「高速道路に専用レーンを全面的にひくことは、車線もそう多くないので現実的ではない」としている。専用レーンを設けても、ジャンクションなどでどうしても一般車が走る場所と交錯が生じるため。警察や高速道路会社といった関連機関とも協議。迂回も含めてその時の交通状況に応じた移動オペレーションを行う。

「2012年のロンドン大会や2016年のリオデジャネイロ大会のような(選手村と周辺に会場を集中させた)オリンピックパークは東京では設定していない。ただ、東京湾岸エリアは会場が多く、ここの混雑は定時性確保のために避けたい」と松本氏。オリンピックは全42競技会場のうち都内湾岸エリアに14会場と中央区晴海に選手村、江東区有明の東京ビッグサイトにはメディアセンターが置かれる。

選手村からの移動は環状2号線が大きな役割を果たすとされてきたが、ルートの一部となるはずだった築地市場の移転が遅れたことにより、地下トンネルを含めた完成は大会には間に合わず、築地市場の横を通る暫定道路で運用することとなる。10月に開場する豊洲市場など物流上も重要な道路となることから混雑の不安が残る。

写真を拡大 2020年7月31日の臨海部における会場と競技時間、混雑予測(出典:東京都オリンピック・パラリンピック準備局資料)

観客については、主に鉄道で会場の最寄り駅まで移動し、そこから各競技会場まで歩くこととなる。湾岸エリアでは例えば1万5000人を収容するオリンピックアクアティクスセンターで開催される水泳は決勝が午前に開催されることが決定。ほかにも同規模の有明アリーナでのバレーボールも午前中の試合が一部予定されている。朝の通勤ラッシュに重なる人気競技があるため、会場への主なアクセス手段となるりんかい線やゆりかもめのほか、乗り換え駅に接続するJR京葉線や東京メトロ有楽町線などのさらなる混雑も懸念される。外国人や地方からの混雑した電車に慣れていない観客も多い。最寄り駅から会場への安全確保、多言語での案内といったものも必要だ。

写真を拡大 TDMの協力を呼びかける範囲と大会ルート(出典:東京都オリンピック・パラリンピック準備局資料)

道路交通量を休日並みへ

東京都と内閣官房、大会組織委員会は8月、大会期間中の混雑緩和に向け、経済団体や企業に協力を促す「2020TDM推進プロジェクト」を発足させた。9月7日現在、日本経済団体連合会など14の団体が協力し144の企業が参加。さらなる協力企業を募集している。また道路や鉄道の混雑予測である「混雑マップ」を早期に公表する予定。松本氏は「企業には混雑をリスクとしてとらえてほしい。混雑マップを示すことにより、企業に状況を知ってもらい、どういった対応をとれるかを共に考えたい」と語る。今後、混雑対策のセミナーや個別相談会も実施。「どういった準備ができるのか、企業と共に考えていくことで対策のモデルができていくだろう」と松本氏は意欲を示す。

TDMの大会期間中の目標は、道路については休日並みの交通量となる平日比15%の交通量削減。鉄道については10%程度の利用者増を予想しているが、現在と同程度のサービスレベルの維持を目指す。そのためにも企業の協力が必要となる。また、企業にとっても混雑対策を行うことはリスク軽減することにつながる。道路の混雑で予定通り荷物が届かない、通勤に時間がかかり定時に出勤ができないといった、生産性が低下する事態を想定し、対策を行う必要がある。

道路について特に有効だとされるのが物流の効率化だ。「業務上必要な物資の注文と受け取りを大会前に終わらせるといった対策をとるように、事業者に呼びかけたい。サプライチェーンを構成する企業間でも話し合い、工夫をお願いしたい」と松本氏。大会期間中の物流需要を抑制し、トラックの交通量削減を図る。鉄道については時差出勤のほか、出勤の必要のないテレワークの導入も呼びかける。大会期間中はチケット購入者に早めの来場を呼びかけるほか、移動の分散へ会場と最寄り駅のそばにファンゾーンを設けることが検討されているという。

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(了)

リスク対策.com:斯波 祐介

 

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